怖い話と怪談の処

あなたが今読んだその話、本当に「作り話」だと言い切れますか?

【怪異】3Dアバター配信中に届いた大量のコメント「後ろの手、誰の?」

都内の大学に通うKさんは、趣味で動画配信を行っている、どこにでもいる青年だった。

彼のチャンネルの売りは、最近リリースされたばかりの「最新型3DアバターSNS」を使い、自分の声をリアルタイムで美形キャラクターに投影させて行う雑談配信だ。

 

今回の配信スタイルはいつもより少し凝っていた。

デスクに置いたスマホで「3Dアバターアプリ」を起動し、その様子をPCに取り込んで配信画面のメインに据える。

そして画面の隅には、Webカメラで撮影した「スマホを操作している現実のKさん」の姿をワイプとして映し出していたのだ。

「カメラオフでもアバターで喋れるけど、たまには実況してる雰囲気も出したいからね」そんな軽い気持ちで始めた、深夜2時の生配信だった。

 

 

「いやー、今日もこのアプリの精度、最高だよね。

このアバター、僕のちょっとした声の震えまで拾って表情に変えてくれるんだよ」

画面の中では、金髪のイケメンアバターが滑らかに笑い、身振り手振りで喋っている。

ワイプの中の現実のKさんもヘッドセットをつけ、手元のスマホを操作しながら楽しそうに談笑していた。

 

異変が起きたのは、配信開始から30分が過ぎた頃だった。

チャット欄のスピードが、突如として異常な速さになった。

 

『え、今…Kくんの後ろ、何か通らなかった?』

『アバターの画面じゃなくて、ワイプの方!Kくんの背後のカーテン!』

『手が…誰かの手が、カーテンの隙間から出てない!?』

 

「えー、みんな怖がらせないでよ。ただの影だって。

風もないのにカーテンが動くわけ…」

Kさんは笑ってワイプの中の自分━━つまり、現実の自分の背後にあるカーテンを振り返った。

そこには古びたアルミサッシの窓と、閉め切った厚手のカーテンがあるだけだ。

「ほら、誰もいないよ。リスナーのみんな、驚かそうとしてるのかな?」

しかし、コメント欄の熱量は下がるどころか、阿鼻叫喚のパニックに染まっていく。

 

『違う!今度はアバターの画面を見て!!』

『アバターの肩に…手が乗ってる!!』

 

Kさんは慌ててスマホの画面を凝視した。

3D空間に佇む自分のアバター。

その左肩に「真っ白な異様に長い指」が、ゆっくりと這い出すように置かれていた。

指の数は五本。

だが、節々が異常にゴツゴツと突き出し、爪は黒く変色している。

その手は、まるで画面の奥から現実を掴もうとしているかのように、アバターの肩口を強く、ぎりぎりと握り込んでいく。

 

「な、なんだこれ…アプリのバグか?」

Kさんは震える手でアプリを強制終了しようとした。

だがその瞬間、Webカメラが捉えていた「ワイプの中の現実のKさん」の背後で、閉まっていたはずのカーテンが、バサリと大きく揺れた。

視聴者たちは目撃した。

ワイプの中でKさんの背後の暗闇から、アバターが掴まれていたのと全く同じ「白い手」がスッと伸び、現実のKさんの首筋に触れるのを。

 

「ガハッ!ゲホッ!!」

突然Kさんが激しく咽せ込み、椅子から転げ落ちた。

Webカメラは床に倒れ伏し、自分の喉を必死に掻きむしるKさんの姿を無慈悲に映し出し続ける。

彼の首には何もないはずの空間から「泥と脂にまみれた、巨大な指の跡」が、じわじわと赤黒く浮かび上がっていた。

 

『Kくん!逃げて!』

『誰か警察呼んで!!』

『待って、アバターが…アバターが勝手に動いてる!』

 

スマホの画面内では、主を失ったはずのアバターがゆっくりと顔を上げた。

アバターは、床で苦しむKさんを見下ろすように冷酷な笑みを浮かべ、そのままWebカメラのレンズ━━つまり、視聴者の方をじっと見つめた。

そしてKさんのスマホから、あのアプリ特有の「ポポポ…」という通知音が、機械的なリズムで鳴り響く。

 

『マッチングが完了しました。あなたの中に入り込みます』

 

Kさんの意識が遠のく中、配信画面のアバターは音声を介さずに唇だけを動かした。

Webカメラ越しに、数千人の視聴者が見守る中で。

 

━━次は、あなたの番。

 

そこで配信は、激しいハウリング音と共に唐突に途切れた。

 

翌朝、Kさんは自室の床で倒れているところを発見された。

命に別状はなかったが、彼の首には深い指の跡が痣となって残ったという。

警察の調べでは部屋は完全な密室であり、第三者が侵入した形跡は一切なかった。

 

だが、あの配信を見ていた視聴者の一部から、今も奇妙な報告が相次いでいる。

深夜、スマホを枕元に置いて寝ていると、電源を切っているはずなのに、暗闇の中で微かに「ポポポ…」という音が聞こえてくるのだという。

それはアプリの中のアバターが、画面を突き抜けて現実の肉体を手に入れた、祝祭の合図なのかもしれない。