怖い話と怪談の処

あなたが今読んだその話、本当に「作り話」だと言い切れますか?

【怪異】クローゼットの隙間から、毎晩「一本ずつ」増える指

都内の大学に通うMさん(10代女性)は、半年前から念願の一人暮らしを始めた。

ワンルームの狭い部屋だが、誰にも邪魔されない自由な空間。

唯一の寂しさを紛らわせる手段は、地元の友人たちと深夜まで続けるビデオ通話だった。

 

スマートフォンの画面越しに、数人の顔が並ぶ。

たわいもない会話をしながら、飲食をしながら笑い合う。

その時間はMさんにとって、一日の終わりに欠かせない安らぎの儀式となっていた。

 

異変が起きたのは、十月の終わりの、ひどく冷え込んだ夜のことだ。

 

 

「…ねえ、M。さっきから後ろ、誰かいる?」

画面の向こうで、友人の一人が唐突に言葉を止めた。

他の友人たちも一瞬で静まり返り、それぞれの画面を食い入るように見つめている。

「え、何?やめてよ」

Mさんは凍りついたように動けなくなった。

背後にはいつも通りのクローゼットがあるだけだ。

建付けが悪く、数センチだけ隙間が空いているが、そこから誰かが覗いているなんて考えたくもなかった。

 

その夜は結局、恐怖で後ろを振り返ることすらできず、通話を切り上げた。

Mさんは震える手でクローゼットの扉を押し込み、念のために重い雑誌をドアの前に積んで、電気をすべてつけたまま朝を待った。

 

翌晩。

再び通話を始めると、また同じ友人が悲鳴に近い声を上げた。

「M、また出てる。昨日よりはっきり見える!」

Mさんは心臓を直接掴まれたような衝撃を感じた。

恐る恐る、手元のスマホのインカメラが映し出す「自分の背後の映像」を覗き込む。

画面の端。

クローゼットの暗い隙間から、一本の指が突き出ていた。

それは青白く、異常に長い。

爪はなく、蝋細工のような質感の指が、扉の縁を内側からゆっくりとなぞっている。

 

Mさんは叫び声を上げ、スマホを放り出した。

クローゼットを確認する勇気なんてない。

彼女はベッドの隅にうずくまり、ただ震えることしかできなかった。

しかし、投げ出したスマホの画面は、無機質に「背後の指」を映し出し続けている。

 

それからだ。

指は毎晩、一本ずつ増えていった。

二日目には二本、三日目には三本。

通話をしていなくても、インカメラを起動すれば必ず「それ」は映り込んだ。

肉眼で振り返っても何も見えないのに、レンズを通したデジタルな世界では、異形の存在が確実にそこにいた。

指の数が増えるにつれ、部屋の温度が目に見えて下がっていった。

四本目の指が現れた夜、Mさんはスマホの画面越しに見てしまった。

隙間から覗く指が、まるでおどけるように、一本ずつ折られ、数を数えているかのような仕草をしているのを。

「明日で五本になる」

Mさんは恐怖で一睡もできなかった。

すべての照明をつけ、クローゼットの前に重い机を置いて塞いだが、スマホの画面の中では、指は着実にその数を増やそうとしていた。

 

そして運命の五日目。

深夜二時。

Mさんは震える手でスマホを手に取った。

通話はしていない。

ただカメラを起動した。

画面に映るクローゼットの隙間。

そこには開いた手のひらのように、五本の指が完全に突き出されていた。

 

その瞬間、画面の向こう側の指が、スッと闇の中に引っ込んだ。

直後、静寂を切り裂くように、聞き慣れない電子音が鳴り響いた。

ビデオ通話の着信音だ。

画面に表示されたのは、登録した覚えのない謎の文字列。

新しい連絡先からの着信。

Mさんは指が震えて動けなかった。

しかし着信は止まらない。

それどころか、着信音に混じって足元から「カサ…カササ…」という音が聞こえてきた。

音はクローゼットの中からではない。

自分の座っているベッドの下からだ。

 

Mさんは意を決してスマホを床に向けた。

カメラが捉えたのは、ベッドの暗がりに這いつくばる真っ白な頭頂部。

そして、その何かの手にはスマートフォンが握られていた。

 

相手が通話ボタンを押したのか、Mさんのスマホから、ハウリングのような不快な高音が響き渡る。

画面の中の何かが、ゆっくりと顔を上げた。

カメラ越しに目が合った瞬間、スマホのスピーカーから、女とも男ともつかない掠れた声が流れた。

 

『…つながった』

 

Mさんは悲鳴を上げる余裕もなく、裸足のまま部屋を飛び出した。

深夜の廊下を駆け抜け、近所のコンビニへと駆け込んで朝を待った。

 

翌朝、連絡を受けた友人たちが駆けつけ、必要な荷物だけ取ってファミレスに移動した。

朝日が差し込む店内で、Mさんは震えながら昨夜の出来事をすべて話した。

友人たちは最初こそ絶句していたが、Mさんの尋常ではない様子を見て、すぐに引っ越しの手伝いを申し出たという。

 

その日のうちに、Mさんはスマホの解約手続きを行い、友人たちの家を転々としながら、急いで新しいアパートを探した。

幸い、その後Mさんの身に直接的な実害は起きていない。