薄暗い路地裏にひっそりと佇む木造アパート「ハイツ松風」。
築40年を超える老朽化した建物は、煤けた外壁と歪んだ窓枠が長年の風雨に耐えてきたことを物語っていた。
その402号室は曰く付きの部屋として知られていて、変な噂が絶えず入居者は長続きしなかった。
そんな402号室に新入社員の佐藤真由美が引っ越してきた。
家賃の安さに惹かれ、噂は気にしなかった真由美だったが、引っ越しの翌日から奇妙な出来事が起こり始める。
夜中に誰かが部屋を歩く音、壁をノックする音、そして真夜中に聞こえる女のすすり泣き声。真由美は次第に恐怖に支配され、眠れない日々を送るようになった。
ある夜、真由美は夢うつつの中で噂の女性の霊を見た。暗い表情で真由美を見つめる霊。真由美は恐怖で声も出ず、ただ震えるしかなかった。
翌朝、真由美はこの部屋から出ていく事を決意した。
大家に退去を申し出た真由美だったが、「敷金は戻せない」と拒否されてしまう。途方に暮れた真由美は霊媒師に相談することにした。
霊媒師曰く、402号室には強い怨念が残っており、それが真由美を苦しめているとのこと。
「怨念を消すには、供養するしかない」
霊媒師の言葉に従い、真由美は402号室で供養を行うことにした。
真由美は故人の冥福を祈り、心を込めて花を手向けた。そして静かにこう語りかけた。
「あなたを苦しめたものはもういません。安らかにお眠りください」
すると部屋に異変が起こった。
突風が吹き荒れ、窓ガラスが割れるほどの衝撃が部屋を襲う。
真由美は恐怖で目を閉じた。
しばらくすると風が止み、部屋は静寂に包まれた。
真由美が目を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
壁の傷が消え、部屋は新築のように綺麗になっていた。そしてあの女のすすり泣き声は聞こえなくなった。
真由美は、供養が成功したことに安堵すると同時に、402号室に込められた深い悲しみに思いを馳せた。
その後、真由美は402号室に住み続け、その部屋で幸せな家庭を築いた。
真由美はあの日供養した女性のことを決して忘れることなく、毎年命日に供養を続けている。