夏の終わり、大学生のグループが山奥のキャンプ場を訪れた。
そこは携帯電話の電波も届かないような秘境で、深い森に囲まれた静かな場所だった。
彼らは学生最後の思い出作りに、自然の中で羽を伸ばそうとやってきたのだ。
キャンプ場に着くと管理者のおじさんが出迎えてくれ、簡単な説明を受けてから彼らは森の中にテントを設営し始めた。
まだ夏と言っても森の中、日が暮れ始めると辺りは急速に暗くなっていった。
彼らは焚き火を囲み、持ち寄った食材でバーベキューを楽しんだ。
笑い声や話し声が森の中に響き渡り、楽しい時間が過ぎていった。
やがて夜になり、辺りが完全に暗闇。
森の中からは動物や何の鳥か分からない鳴き声、木々のざわめきが不気味さを出している。
彼らはこんな凄い雰囲気なんだし、怖い話をしないか?となり、どうせなら管理者のおじさんも呼ぼうという事でおじさんも参加させた。
怖い話と言ってもそうそう体験談があるものではないので、それぞれ適当に思いついた話や、まとめサイト等を見てする事にした。
最初は笑いながら話していたが、次第に彼らの顔は青ざめていった。
特に管理者のおじさんが語った話は、彼らの背筋を凍らせた。
「この森には昔から『顔のない者』が出るという言い伝えがある。
それは人の顔を持たず、代わりに木の皮のような模様が顔にあるという。
顔のない者に遭遇した者は、二度と山から下りてくることはないと言われているんだ。
姿を見た者はほとんどいないが・・・。
もし、木がギシギシと音を立てたり、パキッと小枝が折れるような音が近づいてきたら、それは顔のない者が近くに来ているのかもしれない。
奴らは姿を現すことはほとんどないが、稀に森の養分にしようと襲ってくる事があるそうだ」
大学生の一人が青ざめた顔で、そんなのが本当に来たらどうすればいいんですか?と聞いてきた。
「大丈夫、奴らにも弱点があって焚き火の火を怖がるらしいんだ。
だからもしそんなのが来たら急いで焚き火を付けるんだ」
おじさんはニコっと笑って話は終わった。
大学生たちはすっかり怖がってしまい、急いで焚き火を消してテントの中に入っていった。
やがて寝る時間になり、彼らはテントの中で眠りについた。
しばらくすると、森の中から音が聞こえてくる事に気づいた一人が、他のメンバーを起こす。
それは木の枝がギシギシと軋む音や、パキッと小枝が折れるような音だったので、風で木が揺れてそういう音がするだけだよ、と話していたのだが、その音がだんだんと近づいてきている。
彼らは恐怖で息を殺し、テントの中で身を寄せ合った。
その音は彼らのテントのすぐ外に来たらしく、テントの周りをぐるぐると回り始めた。
皆恐怖で声も出ない。
どのくらい経ったか不明だが、テントの外から声が聞こえた。
「おい!大丈夫か!?」
それはおじさんの声だった。
彼らは安堵のため息をつき、テントから急いで這い出た。
おじさんは息を切らしながらテントの近くまで来て
「まさか本当にいるとはな・・・あの話は爺さんの作り話だと思ってたよ」
おじさんはそう言うと
「急いで焚き火をつけるぞ!」
と叫び、火を起こし始めた。
「今日は日が昇るまで皆で一緒にいた方がいい」
彼らは震えながらおじさんと一緒に焚き火を囲み、太陽が出るまで眠らずに過ごしたそうだ。