私が小学校5年か6年の時の話。
母の実家には広い座敷があった。
古い木造家屋特有の、薄暗くひんやりとした空間だ。
そんな田舎だが、毎年夏になると父の運転で母と遊びに行く。
しかし何故か母は泊まらずに帰ってしまう。
小さい頃は別に何とも思わずに母と一緒に帰っていたのだが、その時は田舎に泊まってみたい!という気持ちが強く、渋る母を説得して私だけ泊まる事になった。
祖父と祖母は私が泊まる事を最初は悩んでいたが、やがて歓迎してくれ、その日は豪華な出前寿司を食べた。
風呂に入ったりテレビを観ながらあれこれをお喋りをし、やがてそろそろ寝ようという事になったが、私は見たい番組があったので一人で起きてる事になった。
その時見ていた番組は心霊番組で、私はそういうのが怖いのだがついつい見てしまっていた。
ふと視界の端に黒い影が映ったような気がした。
テレビ画面から目を離し、その方向を見たが誰もいない。
気のせいだったのかと思い、再びテレビに目を向けた。
しかし数分後、また同じ影が動いているのを見た。
今度は障子越しに差し込む月の光に照らされた影が、ゆっくりと動いている。
私は恐怖で体が震え始め、声も出せない。
やがて影は座敷の壁に沿ってゆっくりと動き、私の方に近づいてきた。
恐怖に耐え切れなくなり、テレビを消して座敷から飛び出した。
祖父と祖母に助けを求めようとしたが、二人はすでに眠っている。
さすがに起こすのも気が引けたので、落ち着こうと台所に行って水を飲んだ。
冷えた水が私の気持ちを少しだけ和らげてくれた。
水を飲み干すと、あれは気のせいだ、見間違いだと自分に言い聞かせ、再び座敷に向かった。
恐怖心は消えていなかったが、何が起こっているのか確かめなければ気が済まなかった。
恐る恐るゆっくり座敷に入って隅々まで調べたが、何もいないし異常は見つからない。
やっぱりただの気のせいだったんだ、少し安心したのでなんとか寝る事が出来た。
次の日に祖父がよく眠れたか?と聞いてきたので、昨日の事を言おうとしたのだが、なんとなくよく眠れたよと伝えた。
母が実家に泊まらずに、夕方に帰ってしまう理由はこれだったのだろうか。