中学校2年生のAさんは、自然体験学習で山奥の宿泊施設に来ていた。
同級生たちと寝食を共にし、ハイキングやキャンプファイヤーなど、都会では味わえない貴重な体験に胸を躍らせていた。
Aさんたちが寝泊まりする部屋は2階にあった。
2日目の夜、Aさんは奇妙な体験をする。
消灯時間を過ぎ、同級生たちが寝静まった頃、Aさんはトイレに行きたくなって目を覚ました。
薄暗い部屋の中、Aさんはベッドから抜け出し廊下へと出た。
宿泊施設は古い木造建築で、廊下は長く裸電球がぽつんと一つ灯っているだけだった。
その薄明かりがかえって廊下の奥を暗く見せ、Aさんは少し怖くなった。
トイレを済ませ部屋に戻ろうとした時、Aさんは廊下の奥の方に人影のようなものを見た。
それはぼんやりとしていてはっきりとは見えなかったが、人が立っていることは確かだった。
「誰だろう?」
Aさんは不思議に思い声をかけるべきか迷った。
しかし、夜中に一人で廊下を歩くなんて何か訳ありかもしれない。
Aさんは怖くなり、廊下の角にある物陰に身を隠した。
人影はゆっくりと廊下を歩き、Aさんが隠れている方へと近づいてきた。
心臓がドキドキと音を立てる。
人影がすぐ近くを通り過ぎた瞬間、Aさんは息を呑んだ。
それは人の形をしていたが、顔も服も何もなくただの黒い塊にしか見えなかったのだ。
黒い塊はAさんを気にする様子もなく、そのまま廊下を進んでいき、やがて階段を下りて1階へと消えていった。
Aさんはしばらくの間その場から動けなかった。
次の日、Aさんは同級生たちに昨夜の出来事を話した。
するとB君がこんなことを言った。
「それ、もしかしたら先輩が言ってた幽霊かもしれないな。
この施設、昔ここで遭難した人がいるって噂があるらしく、その時の人が彷徨ってるって聞いたよ」
Aさんはゾッとした。
B君の話を聞いてますます昨夜の出来事が怖くなった。
ただの黒い塊にしか見えなかった人影。
それは本当にその話の彷徨ってる幽霊だったのだろうか。
その後、自然体験学習は無事に終わったが、Aさんはあの夜の体験を今でも鮮明に覚えているそうだ。