私は子供の頃、夏休みになると母親の実家によく泊まりに行っていた。
ハハの実家は築100年を超える古い家で、夏でもじめじめと暑く、蚊取り線香の煙が常に立ち込めていた。
ある日、昼間に一人で座敷で本を読んでいた時のこと。
誰もいないはずなのに、自分の畳の周りをぐるぐると回る足音が聞こえてきた。
最初は気のせいかと思ったが、何度聞いても確かに足音が聞こえる。
恐る恐る顔を上げて周りを見渡してみたが、そこには誰もいない。
座敷は広々としていて家具は少なく、隠れる場所はない。
足音は私の畳を中心にゆっくりと、しかし確かに回っている。
私は恐怖で声も出ず、ただただじっと座敷の入り口を見つめていた。
足音は数分間続いた後、突然止まり静寂が訪れた。
私はしばらくの間動けずにいた。
ようやく立ち上がることができ、座敷を出ようとしたのだが、足が震えてうまく歩けない。
ようやく部屋を出て玄関にたどり着き、外に出ると、夏の強い日差しが目に刺さった。
私は母に何が起こったのかを話したが、母は信じようとせず、「気のせいよ」と笑っていた。
しかし、私は確かにあの足音が聞こえ、周りを歩き回っていたのだ。
祖父と祖母にもその話をしたのだが、座敷童子かもしれないと言うだけだった。
座敷童子は子供のはず、しかしあの足音は子供というより大人が歩いているような音だった。
私はその年から、母の実家に行くのが怖くなってしまい、あれこれ理由を付けて行かなくなってしまった。