子供の頃、山だらけの田舎で暮らしていた。
家は2階建てで周りは田んぼに囲まれ、まっすぐな道が東西南北に延びていた。
家から東の道は森、北の道は墓地とお寺、西の道はところどころに家があるだけ。
南には川が流れている。
私の家では祖父から「夜は早く寝ろ」と厳しく言われていた。
理由は、お盆の時期になると北から足音がしてくるからだと言う。
よくある子供を驚かす為の作り話なのだろうと思っていた。
お盆の日の夜、私は昼間にも寝てしまったせいか、どうしても眠れなかった。
ふと祖父の言葉が気になり、起き上がって窓辺に座り、北の道を眺めていた。
すると静寂の中、確かに足音が聞こえてきた。
最初は気のせいかと思ったが、徐々に近づいてくる足音は明らかに複数の人間のもの。
しかも地面近くの低い位置に霧がかかり、白い煙のようなものが動いていて、それがだんだんと近づいてくる。
なんだか分からい事に恐怖で震え、見つからないようになるべく屈み、その煙のようなものと足音がどこへ向かうのか見続ける事にした。
すると足音は我がに入ってきたものもあるし、東の森に進んで行くもの、西の方へ向かっていくものと別れた。
私は怖くなり急いで1階に降りようとしたのだが、さっきの白いのに出くわしたらどうしようと恐る恐る1階を覗き込んだ。
白いのが見えない事を確認し急いで降り、寝ている祖父の部屋に駆け込んだ。
「爺ちゃん起きて!変な白いものが入ってきた!」
祖父は最初なんだか分からない様子だったが、私が慌てているのを確認して理解出来たようだ。
「なんだ見ちゃったのか、だが大丈夫、あれはご先祖様が帰ってきただけだよ」
そう言って私を撫で、その日からしばらく祖父と一緒に寝る事にした。
やがてお盆が過ぎ、祖父からもう帰ったから大丈夫と言われた。
大人になってから気がついた事なんだけど、森がある東に行った白いのは何故森に行ったのかが分からない。