ある夏の夜、私は田舎の祖父母の家で従兄弟たちと遊んでいた。
家は古い木造家屋。
私たちはかくれんぼをして遊んでいて、私は一番年下の従兄弟(女の子でAちゃんとする)を見つけようと座敷に向かった。
座敷はシーンと静まり返っているのだが、襖に隠れているかもしれないと座敷に足を踏み入れた。
ポンと足に柔らかいものが触れた。
見てみると、小さな赤い毬がコロコロと転がっている。
不思議に思って手に取ってみると、毬はひんやりと冷たい。
しばらく眺めていると、何それ!と声と同時に一番下のAちゃんが飛び出してきた。
私は
「いや、足元に落ちてたんだけどAちゃんのじゃないの?」
と言いながらAちゃんに毬を渡した。
そんなやりとりを聞きつけたらしく、他の従兄弟も集まってきてその毬を触ったり眺めたりしている。
やがてその毬を投げたりついたりして遊び始めた時、隣の座敷の方からガタッと物音がし始めた。
なんだろう?と皆で見ていると、襖がスーッとゆっくり開く。
私たちは声を失い、開いていく襖を眺め続ける。
開いた襖の奥には薄暗く、やけに奥深い座敷が広がっており、その真ん中くらいに何かが蠢いているような影が見えた。
恐怖を感じながらも私は好奇心に勝てず、その座敷に近づいていった。
そこには赤っぽい着物をきて、おかっぱ頭のような髪型をした小さな子供が立っている。
私は恐怖で声も出ない。
他の従兄弟も同じなのであろう、後ろからは小さい悲鳴のような声が聞こえる程度だった。
私は襖を閉めないと!と考えて、どうにか体を動かそうとしていると
「その毬、私の。返して。」
と言ってきた。
私は
「え、あ、ああ、毬、毬ね。
わかった、今返すね。」
となんとか答え、震える手と体で従兄弟からボールを受け取り、毬を転がして返した。
その子は毬を受け取ると、ありがとうと言った。と同時に襖がピシャっと閉まった。
私と従兄弟はしばらく固まっていたが、Aちゃんが突然走りだし襖を開けた。
その先にあったのは、いつもの座敷の部屋だった。