蝉の声が響き渡る夏の夏休み、私は田舎の爺ちゃんの家に泊まりに行っていた。
古い木造家屋は風情があり、縁側でスイカを食べながら爺ちゃんの昔話を聞くのは、子供時代の私にとって最高の楽しみだった。
ある夜、私は縁側に布団を敷いて蚊帳を吊って寝ていた。
周りは山や田畑ばかりだったので、虫の声だけが聞こえるだけの静かな夜だった。
そんな静かな中、うつらうつらとしていると、縁側の向こうの納戸から物音が聞こえてきた。
誰かが物色しているような、ガサガサと音を立てているのだ。
爺ちゃんか親がいるのかな?と思ったのだが、爺ちゃんも親も部屋で寝ている事を思い出し、恐怖で体が震えた。
・・・が好奇心が勝り、そっと起き上がって外に出て納戸の扉を開けた。
納戸の中は薄暗く何も見えなかった。
一瞬何かが納戸の奥に隠れたような気がしたが、気のせいかもしれない。
月明かりで見える限りの場所には誰もいなく、私はホッとして縁側の布団に戻り、再び眠りについた。
翌朝、爺ちゃんに昨日の出来事を話すと、爺ちゃんは真剣な顔でこう言った。
「音を聞いちゃったのか、実はな、あの納戸には昔から誰も近づかないようにしているんだ。
あの納屋には大きなムジナが住んでいて、悪い子がいたら連れて行こうと出て来るんだよ。」
ムジナという物を知らなかった当時、爺ちゃんの言葉を聞いて背筋がぞっとした。
ムジナって何?おばけなの?って聞いたところ
「ムジナは茶色の毛で覆われたこわ~いものだ、でも◯◯はいい子だから大丈夫だ」
と言ってニコっと笑った。
その夜、私はどうしても納戸のことが気になって眠れなかった。
ムジナが納戸に潜んでいるのかどうしても確かめたかった。
夜中に目が覚めた私はそっと布団から抜け出し、納戸に向かった。
納戸の扉を開けると薄暗い空間が広がっている。
私は懐中電灯を手に納戸の中を慎重に調べ始めた。
納戸の奥には古い農具や不用品が積み重なっていた。
その時、私は背後から何かに触れられたような気がした。
振り返ると、納戸の隅に人影のようなものが立っていた。
私は恐怖で声も出なかった。 人影はゆっくりと私に近づいてくる。
私は思わず後ろに転び、納戸の扉から飛び出した。
納戸から飛び出すと一目散に爺ちゃんの部屋に駆け込んだ。
爺ちゃん納屋の中に何かいた!と爺ちゃんを起こし、納戸で人影を見たことを話した。
爺ちゃんは私の話を聞くとすぐに納戸に向かって「◯◯はここで待ってろるんだぞ」と言って中に入っていった。
しばらくして爺ちゃんが出てきた。
「大丈夫、中には何もいなかった。◯◯が夢でも見たんだろう。」
爺ちゃんはそう言って、縁側で寝てないで爺ちゃんと一緒に寝ようと私を引っ張って部屋に戻ってしまった。
納得がいかなかったがだんだんと眠くなってきてしまい、気がついたら朝だった。