私の知り合いAは、子供の頃に山奥にある小さな村で育ち、近所の子供たちとよく山の中にある河原で遊んでいた。
ある夏の日、Aたちはいつものように河原で遊んでいたが、ふと岩場の影に人のようなものが、顔だけ半分出してこちらを覗いているのを見つけた。
「あそこに誰かいる」
と指を指して言ったのだが、他の子には見えないらしく、どこ?と言っている。
そこの岩の後ろだよと言って、Aは岩場へと近づいていった。
岩場に到着するとさっきいた人のようなものはいない。
辺りを見渡したが誰も見当たらない。
Aは首を傾げながら元の場所へと戻った。
その夜、Aは夢を見た。
夢の中で再び岩場の影に人のようなものがいる。
そのものはAに向かって手を伸ばし
「こっちへ…来なさい…」
とか細い声で手招きしている。
気になったAは、手招きをしている人が誰なのか、じっくり顔を見ながら近づいていった。
すると突然後ろから
「そっちに行っちゃだめだ!」
と大声がした。
Aはびっくりして目が覚めて起き上がってしまった。
何だったんだ?と思いながら寝直した。
次の日、昨日の事が気になったAは、再び河原へと向かった。
到着してしばらくした時、岩場の影に昨日と同じように人のようなものが、顔だけ半分出してこちらを覗いている。
Aは恐怖を感じながらも、そのものに向かってゆっくりと近づいていった。
そして、そのものに手を伸ばそうとした瞬間、
「そっちに行っちゃだめだ!」
という大声が後ろから聞こえた。
びっくして振り返ると、そこには見知らぬお爺さんが立っていた。
お爺さんは、真剣な顔つきでAを見つめている。
Aはお爺さんに言われた意味が分からず、
「どうしてですか?」
と尋ねた。
お爺さんは何も答えず、ただAをじっと見つめている。
その瞬間、岩場の方から「チッ」という舌打ちのような音が聞こえた。
Aが音の方を見ると、岩場の影から人のようなものが消えていくのが見えた。
Aはびっくしてお爺さんの方をみると、お爺さんは何も答えず、ただ微笑み、そのまま踵を返して立ち去って行く。
Aは震える足でなんとか走り、お爺さんのいる方に行ったのだが、どこにも見当たらなかった。