去年体験した話。
季節は暑い夏が終わり涼しくなってきた頃。
その日の夜、私はその日の内に片付けたい仕事があった為、一人オフィスの中で作業していた。
時計を見ると既に深夜を回り、外は暗闇に包まれている。
私はパソコンの画面に向かって仕事を進めていたのだが、少し休憩を入れようと背伸びをして、自販機にコーヒーを買いに行こうとした。
その時、オフィスの廊下から足音が聞こえている事に気がついた。
最初は警備員さんが見回りしてるのかな、と思っていた。
しかし足音が近づいてくるにつれておかしな事に気がついた。
警備員さんならコツ、コツといったような音がするはずなのだが、その音は
「ズズッ…ザッ…ズズッ…ザッ」
という感じの足音。
私は気味の悪さと不安を感じ、オフィスをから廊下の音のする方を覗いてみた。
すると廊下の向こう側から何かが近づいて来ている。
スマホのライトを付け、音のする方を照らしてみると、そこには白いシャツを着た男性がいた。
彼は俯いたまま顔を上げず、ゆっくりと歩いてくる。
私は驚き、すぐにオフィスに引っ込んだ。
あれに気づかれたらヤバイんじゃないか?
と思ったので急いでスマホのライトを消し、オフィスの奥の机の陰に隠れた。
このオフィスに入って来ないでくれ!と祈りながらしばらく彼の足音を聞く。
結構長い時間そうしていたように思えた。
やがて足音は遠ざかり静かになった。
私は途中の作業を保存してパソコンをシャットダウンし、急いで帰り支度をした。
オフィスの電気を消し、ゆっくりと廊下に顔だけ出して彼がいない事を確認する。
彼がいない事が確認できたので、なるべく音を立てないように移動しエレベーターのボタンを押した。
エレベーターはすぐ来てくれたので乗ろうとした時だ。
「ズズッ…ザッ…ズズッ…ザッ」
先程聞こえてきた方向からまた足音が聞こえてきた。
私は急いでエレベーターに乗り1階のボタンを何度も押す。
幸い彼の姿が見える前にエレベーターは閉まってくれて、無事に会社から出る事が出来た。