知り合いのAさんから聞いた話。
Aさんは、大学で写真部というサークルに入っていて、この話はその時の夏合宿で山奥のキャンプ場に行った時の事。
メンバーは真面目でしっかり者のB、お調子者だが頼りになるC、そして怖がりのDの3人。
キャンプ場に着くと、管理人のおじいさんから道具やそれらを使う方法等の説明を受けたあと、最後に怖い顔で「奥の森には絶対に入るな」と忠告を受けた。
C「おいおい、肝試しに来たのに森に入るなってどういうことだよ〜?」
B「そういう言い伝えがある場所なんだろ。むやみに立ち入るのは良くないよ。」
D「や、やめようよ…なんか怖いし…」
A「まあまあ、とりあえず今日は大人しくしてようぜ。
明日、様子を見てから考えよう。」
しかし好奇心旺盛なCは納得していなかった。
夜も更け、皆が寝静まった頃、CはAを起こし、こっそり森に入ろうと誘ってきたのだ。
Aは少し迷ったが、Cの勢いに負けて同行することに。
怖がりのDは置いていくことにしたが、心配性のBはついてくると言い出した。
こうして3人は懐中電灯を手に、暗闇が広がる森へと足を踏み入れた。
森の中は想像以上に暗く、昼間とは全く別の世界に迷い込んだようだった。
しばらく進むと古びた鳥居が見えてきた。
鳥居の奥には苔むした石段が続いており、その先には小さな祠があるのが見えた。
C「おい、祠があるぞ!行ってみようぜ!」
B「おいC、待てよ!危ないって!」
CはBの制止を聞かず石段を駆け上がっていく。
Aも仕方なく後を追った。
祠の周りには無数の鈴が吊るされており、風に揺られてチリンチリンと音を立てている。
その音はどこか物悲しく、3人の心をざわつかせた。
B「C、もう引き返そう。こんなところに長居は無用だ。」
C「えー、せっかくここまで来たのに?ちょっと見てみようぜ。」
Cが祠に近づくと、どこからか女の人のすすり泣くような声が聞こえてきた。
声に導かれるように3人は祠の裏側へと回ってみた。
するとそこには、白い着物姿の女性がしゃがみ込んでいた。
女性は手に鈴を持ち、顔を伏せて泣いている。
AとBははぎょっとして声も出なかったのだが、Cが
「もしかしたら可愛いお姉さんかもよ」
と小声で言い出した。
「ばか!こんな暗闇にいるなんて普通じゃないぞ!」
とAが言ったのだが、まるっきり聞こえていないようで近づいていってしまった。
C「あの~、こんな所でどうしました?」
Cがそう声をかけると、女性がゆっくりと顔を上げた。
その顔は青白く、目は虚ろで生気を感じない。
女性は手に持った鈴を3人の目の前で鳴らした。
チリン…
乾いた音が森に響き渡った瞬間、3人は意識を失って倒れてしまった。
翌朝、心配になったDが管理人のおじいさんに報告したところ、血相を変えたおじいさんが「なんてばかな事を!急いで探すぞ!」と森に探しに入った。
Dとおじいさんが森の中で探していると、祠の前に倒れている3人を発見した。
おじいさんは3人を起こし、厳しく叱責した。
3人は昨晩の出来事を鮮明に覚えており、恐怖で震え上がっていた。
「あの森には入るなとあれほど言っただろう。
あそこは…鈴の音の女の住処だ。
あいつの鈴の音を聞いたら最悪の場合、魂を奪われてしまう。」
おじいさんの言葉に、3人は顔面蒼白になった。
「お前たちは運が良かったのだろうな。
でももう帰ったほうが良い」
そう言った後、おじいさんとともにキャンプ場の広場に戻っていった。