これはA子さんという子が一人暮らしをした時の話。
A子が一人暮らしを始めて3ヶ月が経った。
住んでいるアパートは築年数は古いものの、家賃も安く、駅にも近いので気に入っていた。
ある夜、いつものようにベッドで本を読んでいると、壁の向こうからかすかに音が聞こえてきた。
隣の部屋の住人がテレビを見ているのだろうと思ったが、その音は次第に大きくなり、何かを叩きつけるような音や、何を言ってるかは分からないが怒鳴り声のようなものまで聞こえてきた。
「喧嘩でもしているのかな?」
A子は少し不安になったが、しばらくすると音は静かになった。
次の日の夜、また同じような音が聞こえてきた。
今度は壁を叩くような音が混じっていて、A子は怖くなってしまった。
隣の部屋の住人はいったい何をしているのかとても気になった。
ヘッドホンをして音が静かになるのを待ったが、我慢の限界に達したA子は、次の日アパートの管理人に相談することにした。
「隣の部屋の住人なんですが、夜になると大きな物音がして怖いんです」
すると管理人は不思議そうな顔をして言った。
「え? 隣の部屋は空き部屋ですよ。
3ヶ月前に前の住人が引っ越して以来、誰も住んでいません」
A子はゾッとした。
では毎晩聞こえてくるあの音は何なのか。
管理人は不審に思い、A子と一緒に隣の部屋を見に行くことにした。
しかし部屋のドアを開けてみると中は空っぽで、人が住んでるとは思えなかった。
「おかしいですね… 誰かが勝手に入り込んでいるんでしょうか」
管理人は首をかしげながら部屋の中をくまなく調べたが、人の気配は全く感じられなかった。
そこで管理人はある提案をした。
「念のため、カメラを設置して一晩中録画してみましょう。
何かが映るかもしれません」
A子もその提案に同意し、二人は小型カメラを部屋の隅に設置した。
次の日、A子と管理人は録画された映像を一緒に見てみた。
すると夜22時を過ぎたあたりから、部屋の中で奇妙な現象が起こっていた。
何もないはずの部屋の中で、黒い影が蠢き、壁を這いずり回る様子がかすかに映っていたのだ。
「これは…一体…」
管理人は驚きを隠せず、A子は恐怖で体が震えた。
さらに、A子の部屋の壁が引っ掻かれているのも気になった二人は、A子の部屋にもカメラを設置してみた。
すると、今度は深夜2時過ぎに、壁をガリガリと引っ掻く黒い影が映っていた。
その影は隣の部屋で見た影と同じように、細長く不気味な形をしていた。
映像を見たA子はあの部屋にはもう二度と戻りたくないと思い、すぐに引っ越しを決めた。
管理人さんも状況が状況なので了承し、次の部屋が決まるまで代わりに空いてる部屋を貸してくれた。
荷造りをし、不動産屋に連絡をして新しい物件を探し始めた。
それからしばらくして引っ越しする日になり、管理人さんにお世話になったお礼を言ったあと、カメラの映像はどうするのか聞いてみたところ、近くのお寺に持っていくとの事だった。
別れる時、管理人さんにこうも言われた。
「この事は誰にも言わないでね、このアパートの評判にも関わりますし…」
その後、あの部屋に誰が住んだのかはわからない。