ある夏の金曜日の夜、会社に残業していた私は、ふと佐藤と山田を誘って山奥にある廃墟でキャンプをすることを思いついた。
「明日どうせ暇だし、山奥の廃墟でキャンプでもしないか?」
私の提案に二人ともすぐに賛成してくれた。
土曜日の朝早く、私たちは車で山奥へ向かった。
途中、車が故障してしまい、予定より大幅に遅れて廃墟に到着したのは夜だった。
廃墟は古びた木造建築で、二階建て。
窓ガラスは割れ、壁は蔦に覆われていた。
「こんな場所で本当にキャンプするのか?」
山田は不安そうにあたりを見渡していた。
「大丈夫だよ、中は意外と綺麗だし。」
私はそう言って懐中電灯で廃墟の中を照らした。
一階は広々としたホールになっており、壁には剥落したポスターが貼ってあった。
二階にはいくつかの部屋があり、おそらく宿泊部屋だったと思われる。
私たちは二階の部屋の一つに荷物を置いて、外でバーベキューを始めた。
夜空には満月が輝き虫の声が響き渡っていた。
「こんな場所でキャンプするなんて最高だね。」
佐藤はビールを飲みながら満月を見上げていた。
しばらくすると、山田がトイレに行きたいと言い出した。
「ちょっとトイレ行ってきます。」
山田はそう言って廃墟の中へと消えていった。
数分後、山田が戻ってきた。
「ちょっと変なことがあったんだけど。」
山田は青ざめた顔でそう言った。
「トイレに行こうと思って二階の廊下を歩いていたら、誰かがこっちを見ているような気がしたんだ。
振り返ると誰もいなかったんだけど…。」
山田はなんと言っていいのか分からず、言葉が続かないようだ。
「気のせいかもしれないよ。」
私はそう言って山田を安心させようとした。
しかし、山田の顔は明らかに不安そうだった。
バーベキューが終わって、私たちは廃墟の中で寝ることにした。
私は二階の部屋で一人、寝袋にくるまって眠りについた。
夜中、私は奇妙な音で目を覚ました。
それは誰かが床を歩いているような音だった。
私は耳を澄ませた。
音は私の部屋のすぐ外で聞こえていた。
恐る恐る寝袋から出てドアノブに手をかけ、ドアノブを握りしめたまま深呼吸をした。
そしてゆっくりとドアを開けた。
廊下は薄暗く静まり返っていて何も見えなかった。
ホッと胸を撫で下ろし部屋に戻ろうとしたその時、背後から声が聞こえた。
「誰…?」
声はすぐ後ろから聞こえたように思えた。
私は恐怖で体が震えた。
一目散に部屋に駆け込みドアを閉めた。
そしてベッドに潜り込んで目を閉じた。
しばらくの間恐怖で体が震えていたのだが、やがて眠りについた。
翌朝、私は目を覚ますとすぐに、昨日の出来事が夢だったのではないかと考えた。
私は佐藤と山田に昨日の出来事を話した。
二人は私の話を信じてくれなかった。
「残業続きだったからな…疲れでそういうのを体験しちゃったのかもしれない。」
佐藤はそう言って私の肩を叩いた。
しかし自分が体験したことが夢とは思えなかった。