怖い話と怪談の処

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旅館の部屋の中から聞こえてくる声

友人のKが大学生の頃、長期休みを利用して、一人でとある県北部の温泉街に旅行に出かけた時の話。

旅行の目的は温泉と、山間に点在する様々なお寺を巡ること。

大学で歴史を専攻していたKにとっては、まさにうってつけの旅先だった。

 

午前中に旅館に到着したKは、荷物を預けると早速お寺巡りに出かけた。

古い木造の建物、苔むした石段、静謐な空気。それぞれの寺が持つ独特の雰囲気に浸りながら、Kは時間を忘れて散策を楽しんだ。

 

夕方、日が傾き始めた頃に旅館に戻ったKは、温泉で疲れを癒し、地元の食材を使った美味しい夕食を堪能した。

あとは部屋で明日の予定を立てながらゆっくり過ごすだけだ。

部屋の前に着くと中から楽しそうな話し声が聞こえてきた。

まるで大勢で宴会をしているような賑やかさだ。

「あれ?部屋間違えたかな?」

Kは部屋の札を確認する。間違いなく彼の部屋だ。

だが話し声はどんどん大きくなる。老若男女入り混じったような、様々な声が聞こえてくる。不思議に思いながらも襖に手をかけた。

 

スーッ


襖を開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。

畳の上に座り込んだ大勢の老人たちが、こちらをじっと見つめている。

宴会どころか誰も一言も発さず、ただただKを凝視しているのだ。

老人の数は20人ほどだろうか。着物や浴衣を着ており、旅館の宿泊客のようにも見える。

だが、彼らの顔はひどく青白く、生気を感じられない。

彼らの視線はKを貫くように鋭く、まるで何かを訴えかけているようだった。

 

「えっと…すみません、部屋を間違えました!」

 

咄嗟にそう言って慌てて襖を閉めた。心臓がバクバクと音を立てている。

ありえない光景に頭の中が混乱している。

もう一度部屋の札を確認するが、やはり彼の部屋で間違いない。

今度は意を決して、「失礼します」と声をかけてからゆっくりと襖を開けた。

 

シーン…

 

そこには誰もいなかった。

静まり返った部屋に、Kの息遣いだけが響いていた。

あれは一体なんだったのか。幻?それとも…。Kはあの時の老人の視線を思い出し、ひとり鳥肌を立てた。

Kはしばらく呆然としていたが、気を取り直して布団を敷き横になった。

しかしあの光景が頭から離れず、なかなか寝付けない。

目を閉じると青白い顔の老人たちが浮かんでくる。

彼らの視線がKを責め立てているような気がした。

しばらくすると、どこからともなく微かな音が聞こえてくる。

それは鈴の音のような、風鈴の音のような不思議な音だった。

音は次第に大きくなり部屋の中を満たしていく。

Kは布団の中で身を縮こませ、ただただ音に耳を傾けていた。

するとその音は次第に人の声に変わっていく。

それは確かに先ほどの老人たちの声だった。

「…若いもんが一人で…」

「かわいそうに…」

「…あの世で寂しくないように…」

何を言っているのかはっきりと聞き取れないが、その声は次第に大きくなりKの頭の中に響いてくる。

恐怖に耐えられなくなったKは布団をかぶり、朝まで震えながら過ごした。

翌朝、旅館をチェックアウトする際、Kは昨夜の出来事を女将さんに話そうとした。

だが何故か言葉が出てこない。

何かを話せば、取り返しのつかないことになるような気がしたのだ。

結局、Kは何事もなかったかのように旅館を後にしたそうだ。