夕暮れ迫る薄暗い校舎。
部活に熱中していたAさんは、気がつけばすっかり日が暮れてしまっていた。
慌てて荷物をまとめ帰路につこうとするが、大事な教科書を教室に忘れてきたことに気づいた。
もうあたりはすっかり暗くなっている。
それでも教科書は宿題の為に必要なものだ。
ため息をつきながら、Aさんは重い足取りで4階の教室へと向かったのだが、向かってる途中で嫌な噂を思い出してしまった。
それは「18時を過ぎると4階の教室の中に黒い影が歩き回っている」というものだった。
4階はすでに人影もなく静寂に包まれていた。
教室の引き戸の前で立ち止まり、Aさんは息を潜めて耳を澄ませる。
誰もいないことを確認してから、そっと引き戸を横に滑らせた。
しかし引き戸はびくともしない。
何度滑らせても引き戸は固く閉ざされたままだった。
焦りと不安が募る中、Aさんは引き戸に力を込める。
その瞬間、背筋を凍らせるような音が聞こえた。
それは金属が擦り合うような不気味な音だった。
音は引き戸の奥、ようするに教室の中から聞こえてくる。
Aさんは不思議に思いながら教室の中を覗いてみた。
そこには、誰もいないはずの教室の奥に黒い影が立っていた。
影は人型をしているようだが、その姿は薄暗闇に紛れてよく見えない。
Aさんは恐怖で声も出ず、ただただその影を見つめる。
すると影はAさんに気づいたらしく、ゆっくりと近づいてくる。
Aさんは体を動かすことができず、ただそれをジッと見つめるしかできない。
やがてその影がAさんの目の前にまで来た時、突然人の顔が現れ、血走った目がAさんを睨みつけている。
その瞬間、Aさんは体が動かせるようになった。
Aさんは恐怖で全身が震えていたが、なんとか走って校舎から逃げ出した。
次の日、Aさんは昨日見た影の事をクラスメイトに話したところ、噂は本当だったんだ!と学校中に広まってしまい、しばらく部活の用事があっても17時30分までには校舎から出る事!という決まりが出来てしまった。