これは、大学時代にサークルの友人たちと山奥のキャンプ場に行った時に起こった話。
その夏、俺たちはサークルのメンバー6人で、車2台を連ねて山奥のキャンプ場に向かった。
キャンプは恒例の行事だったが、今回は特に山奥の静かな場所を選んだ。
目的地に着いたとき、辺りは自然に囲まれて人の気配は全くなかった。
日差しが強い昼間、俺たちは森の中を散策したり、川で泳いだりして過ごした。
夕方になると焚き火の準備をしながら、持ってきた食材でバーベキューを楽しんだ。
食事が終わる頃には夜が訪れ、焚き火の周りで賑やかに話し込んでいた。
焚き火の明かりが揺れる中、笑い声が絶えなかった。
夜も更けた頃、仲間の一人が「ちょっとトイレに行ってくる」と言い出した。
俺もついでに行こうと思い、「俺も行くよ」と言って後に続いた。
トイレは少し離れた場所にあり、暗い森の中を懐中電灯の明かりを頼りに歩いていく必要があった。
途中、前を歩くその後ろ姿に違和感を感じた。
あれ?この後ろ姿、誰だっけ?今日のメンバーの中にこんなやついたっけな?さっきまで気づかなかったが、よく見てみると服が少しボロく、ところどころ土汚れのようなものが見える。
気になって近くまで走り寄り「なあ、お前誰?」と声をかけた。
するとその人が振り向いた。
月明かりではっきりとは分からなかったが、目が落ちくぼんで真っ黒、頬はやせ細ったかのようにげっそりとしていた。
その顔を見た瞬間、背筋が凍りついた。
驚きと恐怖で俺は叫び声をあげ、全速力でキャンプファイヤーの元に戻った。
皆に今起きたことを話すと、友人たちは驚いた顔で「え?今トイレに行ったの、お前だけだよ?」と言った。
人数を数えてみると確かに皆揃っていた。
恐怖で震えながらも、皆でその場にいたことを確認し合った。
誰もが一緒に過ごしていたことは間違いない。
あの影は一体誰だったのか。
全員が困惑し、不安な気持ちを抱えたまま夜を過ごすことになった。
その後、寝袋に入っても誰も眠れず、外に出て焚き火を絶やさないようにしながら夜が明けるのを待った。
夜明け前、森の中からすすり泣くような声が聞こえてきた。
俺たちは怖くて動けなかったが、その声が次第に近づいてくるのを感じた。
突然声がピタリと止んだ。
誰もが息を呑んで周囲を見回したが何も見えない。
朝日が昇ると、俺たちは急いでキャンプの片付けを始めた。
怖い体験を早く忘れたく、できるだけ早くこの場所を離れたかった。
車に荷物を積み込み、キャンプ場を後にする際誰もが無言のままだった。