日本各地に存在する「いわくつきのトンネル」。
山の中にある○○トンネルもまた、そんな曰く付きスポットとして地元では有名な場所だった。
私が耳にしたのは、このトンネルで起こる奇妙な現象についてだった。
それは「赤いヘッドライトの車」の怪異。
「深夜、あのトンネルを走っていると、前から赤いヘッドライトの車が対向車線にはみ出してくるんだ。
で、ヘッドライトの光が強すぎて車種まではよく分からないんだけど、どうにも車の種類が古臭い、っていうか今時見ないような型の車なんだよ」
地元の男がそう教えてくれた。
「それだけなら、ただの危険運転じゃないか」そう思った私は、更に詳しく聞いてみることにした。
「問題はすれ違う直前なんだ。
あんな狭いトンネルなのに、ぶつかるんじゃないかってくらいギリギリまで寄ってくるんだと。
で、肝を冷やして慌ててブレーキを踏むんだけど…次の瞬間にはもう車は消えてるんだそうだ…」
男はそう言うと意味深な笑みを浮かべた。
興味を持った私は、後日、実際にそのトンネルへと向かい、深夜になるのを待って車でトンネルへと入っていった。
トンネルの中はジメッとした空気が漂い、近くに家も無いからか異様な静けさに包まれている。
ヘッドライトの光だけが、前方を照らしている。
最初は何事も起きずにトンネルを通過出来てしまい、「やっぱりただの噂か」と思ったのだが、もう少しやってみようと戻ってまた通る。
2度目も何も起きず、3回目も何も起きなかったら帰るか、とトンネルに入った。
すると向こう側から、ゆっくりと近づいてくる二つの赤い光が見えた。
(うわっ!来た!)
私は背筋に冷たいものを感じながら、その赤い光を凝視した。
それは男の言っていた通り、ヘッドライトだけが異様に赤い。
しかし車体のシルエットは闇に溶け込んでハッキリとは分からない。
(なんだ?あの車…)
車はセンターラインをはみ出しそうなほどに、こちら側に寄ってくる。
(おいおい、まさか居眠りしてるんじゃないだろうな…)
恐怖を感じた私は、クラクションを鳴らし、ブレーキを踏みながら路肩に車を寄せた。
路肩に車を寄せた時、すぐ横を赤いヘッドライトをつけた車がゆっくりと通り過ぎていく。
車体が古いと言われてたので、どんな形の車なのか見てやろうと凝視する。
(…あれ?車体が…無い?)
横を通り過ぎる時、赤いヘッドライトは通り過ぎていった、しかし、その後に車体の存在が見えなかったのだ。
恐怖の感情を抱きながら、確認のためにサイドミラー越しにその車を見た。
サイドミラー越しに映っていたのは、やはり車体がなく、ヘッドライトだけが宙に浮いていて、まるで意思を持った生き物のように闇の中を音もなく移動していく姿だった。
「ひぃぃぃっ!!」
恐怖のあまり情けない叫び声をあげてしまった。
赤いヘッドライトはそのままトンネルの奥へと消えていき、二度と姿を現すことはなかった。