社会人のAさんが登山をして体験した話。
久々にまとまった休みが取れたので、学生時代から好きだった登山をすることにした。
朝早くに車で山の麓に向かい、登山を開始。
静かな山道を歩きながら、新鮮な空気と山の景色を楽しんでいた。
しばらく山を登っていると突然霧が発生し、数メートル先が見えない程に視界が悪くなってしまった。
下手に動くのも危険なのでその場に座り、霧が晴れるのを待つことにした。
「こういう濃霧の中を楽しむのも一興だよなー」と考えていた時、どこからか話し声が聞こえてきた。
「あれ?こんな近くに人がいたのか」とAさんがその話し声がする方に声をかけてみたのだが返事はない。
しかし、まだ話し声は聞こえてくる。
心細くなったAさんは、その話し声がする方へとゆっくりと足場を確認しながら向かうことにした。
すると焚き火を囲った二人の登山家のおじさんがいて、何かを喋っていた。
Aさんが挨拶をすると、二人は笑って挨拶を返してくれた。
「突然のこの濃霧、大変ですねー」などと色々と会話をして過ごしていると、片方のおじさんが徳利に入った飲み物を出してきた。
Aさんはお礼を言い、リュックからコップを出してついでもらった。
匂いを嗅ぐとお酒のような匂いがする。
「これはなんですか?」と聞くと、「山の酒の◯◯だ」と言ったのだが、発音がよく分からず何のお酒かは分からなかった。
でもいい匂いだったので飲み干した。
「おいしいですね」と言うと、もっとどうだと言われて再び注がれる。
Aさんはまたもやクイっと飲み干した。
すると視界がぼやけ始め、眠りに落ちてしまった。
気がつくとさっきまでの霧が晴れている。
ボーっとしながらしばらく周りを見渡したり考えたりしたが、もしかしたら夢だったのかもしれないと思った。
霧も晴れたし行くか、と立ち上がろうとした時、自分のコップが目の前の切り株の上に置いてあり、匂いを嗅ぐとさっき飲んだお酒の匂いがした。
Aさんはなんとなく「ごちそうさまでした」とお礼を言ったあと、おつまみになりそうな食べ物を切り株の上に置いて下山した。