Nさんという人から聞いた話。
Nさんは大学生で、試験近くに深夜まで図書館で勉強することが多かった。
大学の近くにあるその図書館は、24時間営業しており学生たちにとっては非常に便利な場所だった。
ある晩、図書館で勉強をしていたNさんは、深夜1時を過ぎた頃に休憩を取ることにした。
静まり返った図書館の中で、Nさんは飲み物を取りに行こうと席を立った。
自動販売機の前で飲み物を選んでいると、誰かの視線を感じた。
振り返ると遠くの書架の間に人影が見えた。
暗い中で見えるその影は、じっとこちらを見つめているようだった。
(こんな時間に他にも勉強している人がいるんだな)
そう思ったNさんは特に気にせず席に戻った。
しかし、その後もその影が頭から離れなかった。
勉強に集中しようとするたびに視線を感じ、目を上げると書架の間に同じ影が見えるのだ。
不安になったNさんは、近くにいた図書館の職員に声をかけた。
「すみません、あそこにいる人、何をしているんでしょうね?」
職員はNさんが指さした方向を見た。
「誰もいないですよ」
そう言われてNさんは不安になった。
確かに人影が見えたはずなのに。
職員は
「深夜だから疲れているんでしょう。少し休んだ方がいいですよ」
と言い残して去っていった。
しかしNさんは納得できなかった。
再び勉強に戻ったが、視線を感じるたびに背筋が寒くなった。
最後にはどうしてもその場所を確かめたくなり、勇気を出して書架の間に向かった。
暗い書架の間を歩いていると、突然耳元で「何を見ているの?」という声が聞こえた。
驚いて振り向いたが誰もいない。
しかし、その声の主がさっきの覗いていた影では?と思ったNさんは、恐怖で全身が震えた。
その後、Nさんはもう図書館で夜遅くまで勉強することはなくなった。
友人たちにその話をすると「疲れて幻覚を見たんだよ」と笑われたが、Nさんにはあの時の声と視線が忘れられなかった。
夜の図書館には何かが潜んでいるのかもしれない。