Yさんは毎朝、同じ時間に同じ満員電車に乗って会社に通っていた。
その日は特に疲れていたわけでもなく、いつも通りの通勤のはずだった。
いつものようにぎゅうぎゅう詰めの車内でなんとか立ち位置を確保し、吊革に掴まりながらボーッとしていると、ふと視線を感じた。
何気なく周りを見回すと、人混みの中に自分にそっくりな人がいることに気づいた。
(え?あれ、俺?)
驚きで一瞬目を見開いたが、すぐに「そんなわけないだろ」と自分に言い聞かせた。
しかしそのそっくりな男は、まるで鏡に映った自分のように同じ服を着て、同じ髪型をしていて、右目の下にあるホクロまで同じ位置にある。
その男もYさんの存在に気づいているらしく、じっと見つめていた。
(誰だあれ?なんで俺にそっくりなんだ?)
疑問が頭を離れず、電車が次の降りる駅に着くまでその男から目を離せなかった。
電車が止まりドアが開いた瞬間、その男は人混みをかき分けて外に出て行った。
Yさんも気になって後を追ったが、満員の車内から抜け出すのに時間がかかり、結局見失ってしまった。
その日の仕事中、あの男のことが気になって頭から離れなかった。
翌朝、Yさんは早めに家を出て、いつもより一本早い電車に乗ることにした。
しかし、その電車にもやはり自分にそっくりな男が乗っていた。
今度は見失わないように注意深く観察していると、またYさんと同じ駅で降り、同じ道を歩いていった。
まるでYさんの生活をそのままなぞっているかのようだった。
さらに驚いたのは、その男がYさんの会社のビルに入っていったことだ。
(まさか…)
恐る恐るビルに入っていくと、男はエレベーターに乗った。
Yさんも急いでそのエレベーターに乗り、意を決して男に声をかけた。
「あの、あなたは誰ですか?」
しかし男は無言のままで、目的の階に着くとそのままエレベーターを降り、Yさんの部署に向かっていく。
急いで追いかけるように付いて行くと、Yさんの部署に入り、Yさんのデスクの前に立った。
そして男が振り返ると、その顔はYさんの顔そのものだったが、目が異様に冷たく、どこか無機質な感じがした。
「お前は誰だ?俺のことをどうして知ってるんだ?」
男は静かに口を開いた。
「俺はお前だ。ただし、お前の人生を乗っ取るためにここにいる。」
その言葉を聞いた瞬間、Yさんは強烈な頭痛に襲われその場に倒れ込んだ。
気がつくと病院のベッドに横になっていた。
「お、目が覚めたか。大丈夫か?お前いきなり倒れたんだぞ」
すぐ横に同僚がいた。
Yさんはどうしてここにいるのか等聞いた後、Yさんそっくりな奴について同僚に尋ねた。
「あの俺にそっくりなやつはどうなった?」
しかし、同僚や会社の人たちはそんなそっくりな人は見ていないと言う。
同僚からすると、挨拶しても反応が無く、Yさんが虚ろな目でつぶやいていたようにしか見えなかったそうだ。