病室で知り合ったYさんという方から聞いた話。
それは夜遅くでの事。
「まもなく、〇〇駅に到着いたします。
お乗り換えのお客様は…」
車掌のYさんは、いつものように車内アナウンスをしていた。
しかしその日は、いつものアナウンスに何かが重なっていた。
「…つめたい… つめたい…」
それはかすかに聞こえる小さな声で、そう言ってるように聞こえた。
Yさんは自分の耳鳴りかと思った。
その声は次のアナウンスでも、また次のアナウンスでも聞こえてきたのだ。
「…もう、ここしかない… もう、ここしかない」
声は次第に大きくなり、Yさんの耳に直接語りかけてくるようだった。
Yさんは恐怖を感じながら後ろを振り返り、車内を見回した。
しかし車内には誰もいない。
「…さむい… つめたい…」
声はますます大きくなり、Yさんは怖くなってきた。
やがて電車が終着駅に到着…するはずだった。
しかしYさんの目の前に広がっていたのは、見慣れない風景だった。
「あれ?ここは…どこだろう」
Yさんは不安に駆られながら乗務員室から降りた。
電気は薄暗く、ホームには誰も見当たらない。
車内を見回したが誰も乗っていない。
いくら夜遅いとはいえ、いつもならまばらながら乗客は乗っている。
Yさんは不安になり駅構内を見渡した。
すると視界に小さな事務所のような建物が目に入った。
あそこなら他に人がいるかもしれない。
そう思い、Yさんはその建物に向かって歩き出した。
建物の中は薄暗く、静かだった。
Yさんは恐る恐るドアを開けて中を見渡したが誰もいなく、机と椅子が置かれていた。
その机の上には手帳のようなものが置かれている。
Yさんはその手帳を開いてみた。
するとそこには、奇妙な言葉が書き留められていた。
「もう、ここしかない。もう、ここしかない。」
Yさんはその言葉を見て、背筋がゾッとするような寒気を覚えた。
慌てて手帳を閉じ、その建物から出て電車の乗務員室に戻る。
乗務員室に入ってドアを閉めた時、突然目の前が真っ暗になり、耳をつんざくようなブレーキ音が響いた。
しばらくすると目の前が明るくなり、急いで周りを見渡すとそこはいつもの終着駅だった。
Yさんは、自分が見た光景と聞いた言葉が夢だったのか現実だったのか分からない。
そう苦笑いしながら語ってくれた。