古びた会社のビルには、知られていない謎の部屋があると噂されていた。
その部屋に足を踏み入れた者は、決して戻ってくることがないという。
その部屋の存在は、長年働いている社員たちの間でさえほとんど知られておらず、都市伝説のような扱いだった。
ある日、新入社員のTさんは、古い書類を探すために地下の資料室へ向かった。
地下通路は電気を付けても薄暗い、そんなコンクリートの地下通路を進んでいると、ふと壁の一部に不自然な継ぎ目があることに気づいた。
まるで隠し扉のようなその継ぎ目に興味を引かれたTさんは、そっとその部分を押してみた。
すると壁は静かな音を立ててスライドし、その先には黒い色の古びた扉が現れた。
「これが例の部屋か?」
Tさんは先輩たちから聞いた噂を思い出した。
好奇心に駆られたが、とりあえず必要な資料を資料室から取ってオフィスに戻り、その発見を誰かに知らせるべきか考えた末、メモを残すことに決めた。
仕事が終わり、Tさんは先程のメモを机の上に置いてから向かった。
扉は既に壁で隠されていたが、その壁を押すとまた壁がスライドして扉が現れた。
Tさんは扉を開けて中に入ってみた。
部屋の中は薄暗く、スマホのライトを使って見渡してみると、部屋の中央に机と椅子が置かれている。
気になったTさんは机を調べ始めた。すると机の引き出しの中に古い日記を見つけた。
その日記には驚くべきことが書かれていた。
「私はこの部屋に閉じ込められている。助けを求めても誰も気づいてくれない。この部屋は存在しないものとして扱われているのだ。ここに入った者は二度と出られない…」
読み進めるうちに、Tさんは背筋が凍る思いをした。
すると突然、部屋の扉が音を立てて閉まってしまった。
Tさんは慌てて扉を開けようとしたが、扉はびくともしない。
パニックに陥ったTさんは、壁を叩きながら助けを求めたが誰も応答する者はいない。
同僚に電話をして知らせないと!と思ったTさんは、スマホの画面をみて愕然とした。
何故か圏外になっていた。
しばらくして、残業をしていた同僚がTさんの机の上に置かれたメモを発見した。
メモには
「地下室の少し進んだ右手側に不自然な壁がある。何か秘密が隠されているかもしれない」
と記されていた。心配になった同僚は先輩にそのメモを見せ、一緒にその場所を探しに行った。
メモを頼りに注意深く右手側の壁を探すと、メモ通りの不自然な壁を見つけた。
同僚がそっと壁を押してみると、静かにスライドし、その先に古びた扉が現れた。
扉を開けると、そこには閉じ込められていたTさんが座り込んでいて、驚いた顔でこっちを見ていた。
Tさんはこの部屋には入っちゃ駄目だと同僚と先輩に言い、中に入ると扉が開かなくなること、そして過去にも誰かが閉じ込められたことを伝えた。
その後、Tさんとその話を信じた同僚と先輩は、その部屋のことを上司に報告しに行った。
普通ならそんな話は信じられないものなのだが、上司はその手の話が好きだったらしく、3人を急かしながらその地下部屋があるに向かった。
しかしたどり着いてみると、さっきまであったスライドする壁が消えており、いくら壁を叩いても扉は現れなかった。
上司は凄く残念そうにしており、3人にこう言った。
またその扉が現れたらすぐに知らせに来い。