梅雨の晴れ間、久しぶりに強い日差しが降り注いだ日のこと。
一人暮らしの女性Sさんが、引っ越しをしようと荷造りをしていた。
段ボールに荷物を詰め込みガムテープで封をしていると、ふと、部屋の奥に何か黒い影のようなものが見えた気がした。
「なんだろう?」
しかし家具の隙間から差し込む光の関係の錯覚だろうと思い、Sさんは気にせず作業を続けた。
箱詰めもあらかた片付いた時、ふと先程の黒い影が気になり壁に目をやった。
「な、何あれ?」
その影の正体に気づいた時、Sさんの顔から血の気が引いた。
それは奥の壁一面に、びっしりと描かれた無数の目だった。
黒く塗りつぶされたような楕円形の一つ一つが、まるでこちらを見つめているかのように感じられ、恐怖のあまり部屋から飛び出した。
部屋から出たSさんはしばらくどうしていいか困っていたが、引っ越しの業者は明日来てくれるし、今日は鍵を掛けて友達の家に泊まる事にした。
次の日、友達と一緒に恐る恐る部屋を見に行ってみたが、壁には何も無かったそうだ。