大学時代、Yさんは家賃が安く、大学から少し離れたアパートに住んでいた。
夏のある日、夜遅くにアルバイトから帰ってきたYさんは、テレビ等を置いてある部屋の出入り口の壁に、薄っすらとした半円の黒いシミがある事に気がついた。
最初は気にしなかったYさんだったが、数日に一度見ると、確かにシミは移動している。
最初気付いた時は半円だったシミは、いつの間にか楕円形になっていた。
不気味に思ったYさんは友人のFさんに相談してみたところ、カビが広がっているのではないかと言った。
なるほど、それはありえるな。
Yさんは試しに洗剤を使ってシミをこすってみたところ、シミは消えた。
しかし数日後、消したはずのシミがまた浮き出ていた。
しかも、そのシミには人間の目や口の形が薄っすらと見えた。
気持ち悪くなったYさんは、また洗剤で念入りにシミを擦り消した。
それからそのような事が何度かあったある夜、寝ていたYさんは突然目が覚めた。
時計を見ると夜中の3時。トイレに行こうと寝たままスマホを取り、ライトを付けた。
その時、部屋の出入り口に黒くて人の形をした靄のようなものがある事に気がついた。
びっくりしたYさんはしばらく固まってしまい、それをじっくりと見ていた。
確かにそれは人の形をしている。
怖くなったYさんは急いで目を閉じた。
それから何分したか分からないが、薄っすらと目をあけて確認すると、まだそれが見える。
Yさんは「早く消えてくれ!」と願いながら、たまに目を開けて確認を繰り返していた。
やがて陽の光がさしてくると、黒い靄は薄くなっていき消えた。
Yさんは安堵のため息を漏らし、恐る恐るトイレに行ったがその日は怖くて寝る事が出来なかった。
その後、Yさんは友人のFさんに連絡してその事を話した所、Fさんと数人の友人がそれ見たさで泊まり込みにきた。
しかし不思議な事にYさん以外が来るとそれは現れず、ただシミがあるだけだったという。
最初のうちは友人たちに泊まりに来てもらったり、友人たちの家に泊まったりを繰り返していたのだが、だんだんとそれに慣れてしまったようで一人でも寝れるようになったのだそうだ。
ちなみにその人の形をした靄は特に何もしないらしく、引っ越すお金も無いので大学を卒業するまでそこに住んでいた、との事だった。