高校時代、テニス部に所属していた私は、夏休みに合宿で地方の山奥にある宿泊施設に泊まっていた。
緑に囲まれた静かな環境で、日中の練習は充実していた。
しかし夜になると話は別だ。
街灯も少なく周囲は真っ暗闇に包まれる。
虫の鳴き声だけが響き渡り、どこか不気味な雰囲気さえ漂っていた。
そんなある夜、私は深夜にトイレに行きたくなった。
薄暗い廊下を一人歩きながら、ふとテニスコートが見える窓辺に目をやった。
すると暗闇の中、テニスコートからボールを打つ音が聞こえてくる。
「こんな夜中に誰がいるんだろう?」
私は不思議に思いながらトイレへ向かった。
用を済ませ部屋に戻ると、たまたま起きていた友人にそのことを話した。
「えっ、真夜中にテニス?そんなことできるわけないでしょ。」
友人は信じない様子で首を振った。
「いや、本当に聞こえたんだって。誰か練習してるみたいだったよ。」
そんなやりとりをしていると他の友人が目を覚まし、こんな時間に何してるんだ?とあくびをしながら言ってくる。
私はその友人にも伝えたところ、友人たちも興味を持ったようで、懐中電灯を持って一緒に確認する事になった。
夜のテニスコートは、昼間とは全く違う異様な雰囲気を醸し出していた。
暗闇に包まれ、ネットやラインは微かにしか見えない。
しかし、確かにテニスコートからボールを打つ音が聞こえてくる。
友人たちは「うわ、ほんとだ、誰かがこんな暗闇でテニスしてる」と言う。
懐中電灯で周囲を照らしながら、音のする方へ向かってみたがコートには誰もいない・・・。
いないのだが、何故かボールだけが暗闇の中を勢いよく飛び回っている。
「えっ、なんだこれ、これどういうこと?!」
私たちは驚きと恐怖で言葉を失った。
ボールはまるで意思を持っているかのように、ランダムに飛び跳ね、時にはネットを超えてこちら側へ飛んでくる。
「誰かいるの?!」
恐る恐る声をかけると、ボールがポーンポーンと跳ね、転がってやがて止まる。
静寂が再び訪れ、暗闇だけが私たちを包み込む。
何が起こったのか誰も理解できなかった。
だが、私たちは確かに暗闇の中で飛び跳ねるテニスボールを見たのだ。
怖さもあるけど不思議な感覚もあり、急いで部屋に戻った。
その時ドタドタと音を立てながら戻ったので他の部員も起きてしまい、その話題を出して盛り上がっていたところ、顧問の先生がやってきてお説教をくらってしまった。
その後、深夜になってもテニスをしてる音は聞こえる事はなかった。