知り合いのAが体験した話。
Aは心霊スポット巡りが趣味の社会人の男。
週末の夜、Aはいつものように心霊スポットへと向かった。その日の目的地は山奥にある廃寺だった。
薄暗い廃寺を懐中電灯で照らしながら、ゆっくりと歩きを進めた。
ひんやりと冷えた空気、埃まみれの古い仏像、静まり返った空間。
背筋にぞっとするような感覚を覚えた。
動画サイトに投稿する為、スマホで動画を撮影しながら廃寺を隅々まで探索した。
しかし特に何も起こらず、拍子抜けしながら帰路についた。
深夜2時過ぎ、自宅に戻ってきた。
風呂で疲れを癒し、冷たいビールを飲みながら今日の心霊スポット巡りを振り返っていた。
「特に何もなかったな・・・。」
そうつぶやきながらAはベッドに横になった。
その時奇妙な音に気づいた。
「ブゥーン・・・ブゥーン・・・」
それは低くて震えるようなモーター音だった。
最初は冷蔵庫の音かと思ったAだったが、その音は明らかに冷蔵庫の音ではない。
「・・・なんだ、この音は?」
耳を澄ませ、音の正体を探ろうとした。
「・・・お経?・・・まさか・・・」
Aは信じられずに耳を疑った。
その音は確かに読経のような声だった。
Aは恐怖に襲われ、布団を頭まで被った。
「・・・怖い・・・助けて・・・」
震えながらただ助けを求めることしかできなかった。
読経の声は徐々にAに近づいてきているようだった。
やがてそれはAの布団のすぐ側に来たようで、すぐ側で聞こえている。
「・・・ごめんなさい!・・・申し訳ありませんでした!」
Aは恐怖で必死に謝り続けた。
どのくらい時間が経ったのか分からないが、ようやく読経の声は聞こえなくなった。
Aは布団から顔を出し、すぐさま今日録画したデータを消去したそうだ。