学生だったAさんは、サークル仲間数人と山奥のキャンプ場を訪れた。
周囲には柳の木が多く、Aさんたちは川のすぐそばにテントを張った。
他に客はいない静かなキャンプ場だった。
夜、外でバーベキューをしながら過ごしていると、時折吹く風と、柳が風で揺れるたびにテントをこする「ザザー」という音、川の流れる音が何とも心地よい。
やがて皆テントの中に入り、眠りにつく。
Aさんは何故か眠ることができず、何度も寝返りをうっていた。
しばらくすると、柳がテントをこする「ザザー」という音が激しくなっていることに気がついた。
音に耳を澄ませていると、「ザザー」という音がテントの周りをゆっくりと回っていることと、「ザッ、ザッ」という細かいジャリを踏みしめる音が混じっていることに気がついた。
Aさんは音を確かめるため、恐る恐るテントの入り口を開けて顔を出し、音の正体を確かめようとした。
するとその音がちょうどテントの角を曲がってきた。
何がいるんだ?と身構えていたのだが、いつまでたっても何も出てこない。
気がつくと、ザザーという音は柳の音だけになっていた。
Aさんは何だったのか分からず、再びテントに入った。
しかし、その音の正体が気になってなかなか眠ることができなかった。
翌朝、Aさんは周りの人に昨夜の音のことを聞いてみたが、誰も聞いていないようだった。
Aさんは自分が聞き間違えたのか、それとも何か不思議な体験をしたのか、今でもよくわからないそうだ。