秋も深まった頃、山歩きが大好きな友人は、一人秋の山のキャンプ場を訪れた。
昼は色とりどりの紅葉を楽しみ、周辺を散策して充実した時間を過ごしていた。
夜になると持参した食材で夕飯を作り、秋の夜の虫の声を聞きながらゆっくりと過ごした。
そして寝る前にトイレに向かった。
トイレの電気をつけ用を足していると、背後の個室のドアから「コンコン」とノック音が聞こえた。
「えっ?」と振り返るがそこには誰もいない。
不思議に思いながら手洗い場で手を洗っていると、再び「コンコン」と音が聞こえた。
個室は2つあり、片方はドアが開けっ放しなので誰もいないはずだ。
閉まっている個室の中にいる人がノックしているのだろうか?
もしかして緊急事態なのか?
友人は急いで手を拭き、閉まっている個室に近づいた。
「誰かいますか?」と声をかけたが返事はない。
個室のドアを開けようとした時、友人はあることに気がついた。
自分がトイレに入るまで、トイレは真っ暗だったのだ。
背筋がぞっとするような恐怖を感じながらも、何らかのトラブルで電気が消えたのかもしれないと思い、
「開けますよ」
と声をかけドアノブに手を伸ばした。
鍵はかかっておらず、ドアはスッと開いた。
しかし、中には誰もいなかった。
友人はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。