知り合いのYから聞いた話。
時期は5月の午後、小学5年生のYは、いつものように友達数人と近くの山でかくれんぼをしていた。
山の中と言っても森のような鬱蒼と茂った木々等はなく、草や雑木、木がまばらにある林のような場所で、子供にとって最高の遊び場だった。
鬼役のAが「数えるよー!」という掛け声で、友達は皆バラけて走って行く。
Yはどこに隠れようかと場所を探す。
木々の間を駆け抜け、草の茂みをかき分け木の裏に回った。
最初は木の裏に隠れようと思っていたのだが、さらに良さそうな隠れ場所を見つけた。
それは背の高い雑木が生い茂る一角だった。
周囲を見渡すと木漏れ日が遮られ、薄暗い空間が広がっていた。
少し不気味な雰囲気だったが、Yはそんなこと気にせず雑木の奥に身を潜ませた。
しばらくすると周囲は静まり返っていて、鳥のさえずりも聞こえなくなっていた事に気がついた。
変だと思ったYは、そっと雑木の隙間から外を覗いてみる。
しかし見える範囲には誰も見当たらない。騒いでる声や走る音も聞こえない。
その時、Yは背筋がゾッとするような感覚があった。
雑木から少し離れた場所にある背の高い草むらが、ガサガサと音を立て始めたのだ。
「Aか?」
Yは心臓が早鐘のように鼓動するのを感じながら、草むらから目を離さなかった。
そして次の瞬間、Yの目の前に信じられない光景が飛び込んできた。
草むらから現れたのは、半透明な背の高い人間だった。
薄暗い空間の中でその姿は霞んで見えにくかったが、確かに人型の影がそこに存在していた。
Yは恐怖で声も出なかった。その人間は、何かを探しているのかキョロキョロとしている。
Yが目を凝らして見ると、その人間の頭頂部には角のようなものが生えているのが見えた。
恐怖のあまりYは「ガサッ」と音を立ててしまった。
その音に気づいたかのように、半透明な人間はYの方へゆっくりと歩き始めた。
「やばい!」
Yは反射的に体を動かし雑木の奥へと逃げ込んだ。
そして目をぎゅっと閉じて「見つかりませんように!」と何度も祈った。
「みーつけた!」
「うわあああっ!」
Yは尻もちを付いて恐る恐る目を開けると、目の前には笑顔で立っているAの姿があった。
「お前驚きすぎだよー」
Aだった事にYは安心した。
それと同時に周りは鳥の鳴き声が聞こえている。
Yは先ほど見た半透明な人間が気になり、恐る恐る雑木から顔を出して覗いてみたのだが、そんなものはどこにもいなかった。