これは知り合いの人から聞いた話なので、聞いたそのままをここに記述します。
深い霧に包まれた山奥の森。
焚き火の爆ぜる音だけが響く静寂の中、キャンパーのVは一人、テントの中で不安に震えていた。
さっきから焚き火の向こうの霧の中に、人影のようなものがぼんやりと浮かんでいるのだ。
目を凝らせば、それはフードを深く被った異様に背の高い人影だった。
Vは恐怖に耐えきれず、テントから飛び出すと人影に向かって叫んだ。
「誰だ!何の用だ!」
だが、人影は答えることなくただじっとVを見つめている。
その目はまるで底なし沼のように暗く、Vの魂を吸い取らんばかりだった。
Vは逃げようと踵を返すが足がすくんで動けない。
人影はゆっくりと近づいてきて、Vの耳元で囁いた。
「お前も、すぐに仲間になるのだ」
次の瞬間、Vは意識を失った。
翌朝、捜索隊がVを発見したとき、彼の体は骨と皮だけに痩せ細り、まるで数十年も歳を取ったかのようだった。
そして彼の顔には、あの世のものとは思えぬほどの恐怖が刻み込まれていた。
あの夜、Vは何を見たのか、そして人影は何者だったのか。
それは深い霧に包まれた、山奥の森だけが知っている秘密である。
しかしそれ以来、あの森でキャンプをする者は、必ずと言っていいほど奇妙な現象に遭遇するという。
ある者は、夜中に誰かがテントの外を歩く音を聞いたと言い、またある者は、焚き火の向こうにフードを被った人影を見たという。
そして彼らの顔にも、あのキャンパーと同じように深い恐怖が刻み込まれていた。
彼らは皆、口を揃えてこう言うのだ。
「あの森には、何かがいる」と。