Kさんが高校時代に体験した話。
Kさんは高校陸上部の長距離選手で、夏の合宿で山奥にある古い寺に泊まり込んでいた。
昼間は寺の近くの広場で走り込み、夜は寺の広間で雑魚寝。
一日中走りっぱなしで疲れ果て、夜は泥のように眠りに落ちるはずだった。
しかし、Kさんはなかなか寝付けなかった。
寺の住職が毎晩語る怪談のせいだ。
「…この寺にはな、大きな大仏があるんじゃ。
夜中になると、その大仏の目が動くという言い伝えがある。
昔この地域を飢饉が襲った時、村人たちは苦渋の決断で、旅の僧侶を大仏に生き埋めにしたんじゃ。
それ以来、大仏は夜な夜な動く目で生贄を探しているという…」
Kさんは怖がりではなかった。
しかし、薄暗い広間に座り、静かに語る住職の話は妙にリアルで、背筋がゾッとするものがあった。
特に広間の奥に安置された巨大な大仏は、昼間見てもどこか不気味な迫力があった。
それが夜になると暗闇の中で大きな影となり、まるで生きているように感じられるのだ。
その夜、Kさんはなかなか寝付けず天井を見つめていた。
すると、不意に広間の奥から何かが動く音が聞こえた。
かすかな音だったが、静寂の中で際立っていた。
Kさんは恐る恐る大仏の方を見る。
暗闇の中で大仏の姿はよく見えない。
だが昼間に見てる大仏とは何かが違う。
次の瞬間、Kさんは息を呑んだ。
暗闇の中で、二つの光が浮かび上がっていたのだ。
それはまるで大きな目玉が、こちらを見つめているようだった。
Kさんは金縛りにあったように動けず、ただただ見つめ返すことしかできなかった。
やがてその光はゆっくりと動き出し、広間をぐるりと見回した後、再び闇に消えていった。