Dさんは旅行が趣味だった。
有名な観光地もいいけれど、Dさんはどちらかというとあまり知られていないような、秘境と呼ばれる場所を訪れるのが好きだった。
ある日、Dさんは、山奥にある「霧ノ村」という村を訪れることにした。
霧ノ村は名前の通り、一年中霧に包まれた村で地図にも載っていないような、まさに秘境と呼ぶにふさわしい場所だった。
Dさんは車で山道を進んでいった。
すると急に霧が濃くなり視界が悪くなってきたので、慎重に運転を続けたが道を間違えてしまったようだ。
車を停めて辺りを見回すと、霧の中に古い鳥居が見えたのでそこに向かって歩き、鳥居をくぐって歩いてみることにした。
しばらく歩くと小さな村が見えてきた。
それが霧ノ村だった。
村はひっそりと静まり返っていて人の気配が全くしない。
しばらく村の中を歩いてみたのだが、家々はどれも古く、まるで廃墟のようだった。
Dさんは不気味に思いながらも、村を探索し続けた。
すると村はずれに小さな祠を見つけた。
祠に近づいて中を見てみると、そこには古い石碑があった。
気になったDさんは石碑を読んでみたところ、こう刻まれていた。
「この村に入る者は二度と出られない」
ゾッとした。
そして急いで村を出ようと元来た道を引き返したのだが、迷ってしまった。
いくら歩いても村から出られない。
おかしい、そんなに大きな村じゃないのに同じ道に戻ってきてしまう。
Dさんは絶望的な気持ちになった。
しばらく呆然としていたのだが、こうしていても仕方がないと思い、とりあえず近場の家に入って声をかけてみた
「誰かいませんかー?」
しかし返事がない。
どうせこれ以上歩いても出られないなら・・・と、Dさんはその家に上がり込み、持ってたリュックから食べ物と飲み物を確認し、今日の夜と明日の朝食べる分をわけた。
Dさんが入った家は木造家屋で、上がり框を上がった所には囲炉裏が置いてある。
運がいい事に土間には薪も置いてあった。
Dさんは薪を囲炉裏に持ってきて、念の為持ってきていたライターや紙くずを使って火を付けた。
やがて囲炉裏から煙がもくもくと立ち上り始めた時の事。
突然眠くなってしまったDさんは、囲炉裏の横に寝っ転がって寝てしまった。
どのくらい経っただろうか?
雀の鳴き声が聞こえ、気がつくと朝だった。
あれ?知らない間に寝ちゃったのかな。
そう思って起き上がり、朝ご飯・・・というかお菓子でも食べようかな、とリュックを漁ったのだがお菓子が全てなくなっていた。
Dさんは食べた記憶がないのだが、仕方がないので水筒から水だけ飲んで外に出てみると、霧が晴れて遠くまでしっかりと見えた。
Dさんは帰れる!と急いで昨日の元来た道に向かって走った。
するとか昨日みた鳥居が見えてきた。
やった!村から出れた!心の中で喜び、村の方を向いたところ・・・さっきまでいた村がなく、変わりに深い森に包まれていた。