梅雨の晴れ間、むしむしと暑い日が続いていた。
学校では教室の窓を開け放して授業を受けていたが、生ぬるい風は熱気を運んでくるばかりで、生徒たちの集中力は途切れがちだった。
午後の授業中、黒板に奇妙な影が映っていることに気づいたのは、窓際から少し離れた席に座っていた男子生徒だった。
「あれ?」
男子生徒は目を凝らした。
それは、まるで長い髪の女が立っているような影だった。
「おい、見ろよあれ」
男子生徒は隣の席の友人に小声で囁きかけながら、顎で黒板の方を指差した。
「え、なに?」
友人も影に気づき、気味悪そうに顔をしかめた。
二人が恐る恐る視線を影の方へ向けると、影はゆらりと揺れたかと思うとパッと消えてしまった。
「な、なんだよ今の」
「き、気のせいじゃないか?」
二人は顔を見合わせて、授業が終わるまで黒板を見ないようにしていた。
授業が終わったあと、二人は急いで教室を出ると、廊下で他の友人たちにその話をした。
「なぁ、さっきの授業中にさ、黒板に変な影が映ってたんだよ」
「え?影?どんな影?」
「長い髪の女みたいな…なんか気味悪いんだ」
友人たちは最初は信じられないという顔をしていたが、二人があまりにも真剣に話すので、次第に興味を持ち始めた。
「マジかよ、それって幽霊じゃないのか?」
「なんでそんな話をするんだよ、怖いじゃん!」
しかし恐怖と好奇心が入り混じった友人たちは、その話を他のクラスメイトや後輩たちにも伝え始めた。
次第に黒板の影の話は学校中で広まり、昼休みや放課後にはその話題で持ちきりになった。
「ねぇ、聞いた?あの影の話」
「うん、なんでも長い髪の女の幽霊なんだって」
「しかも、授業中にしか見えないらしいよ」
「怖いけど、ちょっと見てみたいかも」
こうして黒板に映る影の話は、しばらくの間学校の中で語り継がれることとなった。
誰もその影の正体を知る者はいなかったが、一度目撃した生徒たちの間では、その恐怖の記憶が残り続けたのだった。