※虫が苦手な方はこの話は読まない方がいいです。
夏の暑さが本格的になる少し前、古い一軒家で奇妙な出来事が起こった。
雨が降る中、OLのSさんが夜遅くに帰宅すると、玄関のドアの前に見慣れないものが置かれていることに気づいた。
直径10センチほどの泥でできた小さな球体だった。
「いたずらかしら?」
不気味に思いながらも、Sさんはその泥団子を片付けようとした。
しかし靴で触れた瞬間、泥団子はまるで生きているかのように彼女の靴に絡みつこうとしてきた。
「ひゃっ!」
驚いて足を引っ込めるSさん。
恐怖でその泥団子を見つめていると、それはみるみるうちに形を変え、細長い体をした得体の知れない生き物へと変貌を遂げた。
それはまるで巨大なムカデのような、あるいはヤスデのようなたくさんの節と脚を持つ、黒光りする不気味な生き物だった。
そしてその頭にはギョロリとした大きな目が二つ、Sさんをじっと見つめていた。
Sさんは恐怖のあまり、悲鳴を上げることもできなかった。
その生き物はSさんの足元を這い回り、まるで何かを探しているようだった。
そしてしばらくすると、満足したかのように再び泥団子へと姿を変え、雨の降る中転がっていき、やがて崩れて消えていった。