梅雨明けが待ち遠しい、ある蒸し暑い日の午後。
高校の美術部の生徒たちは、日没後の風景を描くため校舎の屋上に来ていた。
「先生、もうちょっとで沈みますね」
「ああ、茜色に染まる空をよく観察して描くんだぞ」
教師の言葉に、生徒たちは一斉にキャンバスに向き直る。
しかし、その中でひとりの女子生徒だけが、じっと西の空を見つめていた。
「先生……あれ、何ですか?」
女子生徒が指差す方角には夕日に照らされて、白いモヤのようなものが浮かんでいた。
「あれは…雲か? いや、こんな低い位置に…」
教師も首を傾げる。
その白いモヤはゆっくりと形を変えながら、こちらに向かってきているように見えた。
「先生、なんだか気持ち悪いです」
女子生徒は言い知れぬ不安に駆られて筆を止めた。
すると次の瞬間、白いモヤの中から何かがこちらを覗き込むような、そんな気がしたのだ。
それは人間の顔のようにも動物の顔のようにも見えたが、ふっと掻き消えるように消えてしまったそうだ。