深夜のコンビニで働くIさんは、いつものように夜勤に入っていた。
町外れにあるそのコンビニは、夜になると閑散として客足も途絶えがちだ。
時計の針が午前2時を指していた頃、店内はしんと静まり返っていた。
(休憩室に行こうかな…)
Iさんはレジのカウンターに肘をついてため息をついた。
その時だった。
自動ドアが開く音がし、冷たい夜風が一瞬店内に吹き込んだ。
「いらっしゃいませ」
反射的にIさんは顔を上げてドアの方を見た。
そこに立っていたのは一人の男性客。
黒いフード付きのパーカーを着て、フードを深くかぶっているため顔はよく見えない。
怪しい人だな。Iさんはそう思いながら目をレジに移した。
男性は無言で店内を歩き回り、棚の商品をじっと見つめている様子だった。
Iさんはその動きを目で追いながら、どこか不自然な雰囲気に気づいた。
普通、夜中にコンビニに来る客は急いで必要なものを買っていく。
しかしこの客は目的の商品がどこにあるのか分からないように、ゆっくりと色んな棚を見ながら歩き続けていた。
やがてその男性がカウンターにやって来た。
手に持っているのは缶コーヒー一つだけ。
Iさんはレジを打ち始め、ふと顔を上げたその瞬間凍りついた。
(顔が…ない)
確かにそこに立っているはずの男性のフードの中は、暗闇しか見えなかった。
まるでその部分だけが黒い穴のように何も存在していない。
「ま、◯◯円になりますっ」
震える声で何とか値段を言う。
その瞬間、男性は静かにポケットから財布を取り出し、無言で500円玉を差し出した。
Iさんはそれを受け取りレシートとお釣りを渡そうとしたが、男性はそれを無視して店の外へと出て行った。
ドアが閉まり、店内に再び静かになった。
Iさんはどっと汗が吹き出し、その場に座り込んでしまった。
(今のは何だったんだ?何で顔が見えなかったんだ?)
いくら考えても答えは出ない。
その後、Iさんは他の店員にその出来事を話してみたが、そんな客は見た事がないとか、暇すぎて寝てたんじゃないの?と言われるだけで誰も信じてくれなかった。