知り合いのRさんは山登りが趣味で、週末や長期休暇に登山を楽しんでいた。
夏の初め頃、たまたま取れた長期休暇を利用して、山に登り、山小屋で一泊することにした。
山小屋には2段ベッドが2つあり、Rさんは下の段で寝ることにした。
夜、Rさんが本を読んでいると、山小屋の外で歩く音が聞こえた。
「こんな時間に誰かが来たのかな?」
Rさんは不思議に思いながら本を読み続けた。
しかし、いくら経っても誰も山小屋に入ってこない。
「変だな…」
Rさんは山小屋の窓を見た。そこには窓から誰かが覗いているようで人のシルエットが見えた。
「何をしているんだろう?」
Rさんはさらに不思議に思いながらも本を読み続けた。
しばらくすると、山小屋のドアが「コンコン」と2回軽く叩かれた。
「開いてますよ」
Rさんが返事をしたが、いくら待っても外にいる人は入ってこない。
「何で入って来ないんだ?」
Rさんは立ち上がってドアまで行こうとしたが、ふと立ち止まった。
「これは本当に人なんだろうか?もしかしたら動物かもしれない…」
Rさんは恐怖を感じ、ドアを開けるのを躊躇した。
「どうしました?怪我でもしてるんですか?」
Rさんはドア越しに声をかけてみた。すると低くて枯れたような声で「あけてくれ」と返事があった。
「おかしい…」
Rさんはもう一度、「怪我でもしてるんですか?」と聞いてみた。
また同じ声で「あけろ」と返事があった。
Rさんがどうしようかと考えていると、ドアが突然「ドン!」と強く叩かれた。
「これは人じゃない!」
Rさんは恐怖に震えながら、急いでドアから離れて窓から覗いてみた。
そこには黒い大きな塊が立っている。
やがてドアがドンドンと激しく叩かれ始め、人とは思えないうめき声まで聞こえてくるようになった。
Rさんは恐怖のあまり、急いで二段ベッドの上に登り毛布を被った。
その内音はしなくなったのだが、次は山小屋の周りを歩き回っているようで、ガサガサとか、ザッザッと音がしばらく続いた。
どのくらい経ったのかは分からないが、足音が遠ざかっていく音が聞こえた。
気がつくと外は明るんできていた。
Rさんは念のため、しばらく様子を見てから急いで下山した。