ある夏の深夜、俺は友人のAと一緒にドライブをしていた。
都会の喧騒から離れ、山道を走っていたとき、目的地に向かう途中で長いトンネルに差し掛かった。
そのトンネルは古びたオレンジ色のライトが等間隔に並んでいて、薄暗い雰囲気を醸し出していた。
深夜でほとんど車も通らず、俺たちの車だけがトンネル内を走っていた。
途中、ふとトンネルの壁を見ると、少し先の壁から人影が現れたように見えた。
壁からすっと出てきたその影は、反対側の壁に向かって歩きそのまま壁に吸い込まれるように消えていった。
「今の見たか?」
と俺が驚いて言うと、Aも
「見た!今の何だ?」
と声を震わせた。
二人とも一瞬何が起こったのか理解できず、車を止めて後方を確認し、車を降りてその場所まで歩いていった。
あの影が現れた壁をよく見てみたが、人が出入りするようなドアや隙間など一切なかった。
ライトで出来る影が妙に長く伸びて、壁の凹凸を照らしているだけだった。
「人が隠れられるようなものなんてないな」
とAが呟く。
俺も壁を手で触って確認してみたが、ただのコンクリートの壁だ。
その時、背後から冷たい風が吹き抜け、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
振り返ると何もないトンネルの奥深くから、かすかなすすり泣くような声が聞こえてきた。
急に怖くなったので、Aを急かして車に戻り、エンジンをかけて一気に走り抜けた。
後で調べたところ、そのトンネルはかつて事故が多発していた場所だと分かった。
噂では深夜になると、トンネル内で奇妙な現象が起こるという事だった。