大学生のSさんたち友人グループ5人は、夏休みを利用して山奥のキャンプ場を訪れていた。
普段の喧騒から離れ、自然の中で思い切りリフレッシュするつもりだった。
そのキャンプ場はあまり整備されておらず、周囲には人影もなく静かだったが、むしろその孤独感が冒険心をくすぐった。
昼間は川で遊び、夕方には食材を調達してバーベキューを楽しんだ。
夜が更ける頃には満腹になった彼らは焚き火を囲みながら談笑をしていた。
火の赤い光とパチパチと薪が燃える音が心地よい。
話題は怖い話へと移り、誰かが地元の古い噂話を披露し始めた。
「この辺りでは、昔から火が突然消えるって話があるらしいよ。
火を囲んでいると、急に真っ暗になるんだってさ」
その話を聞いた誰かが笑いながら突っ込む。
「そんなの怖がらせるための作り話だろ。
火が勝手に消えるなんてあるわけないじゃん」
しかしその瞬間だった。
焚き火が突然「シュッ」という音を立てて消えた。
まるで強風が吹き抜けたかのように、赤々と燃えていた炎が一瞬で闇に吞まれたのだ。
「えっ何で?」
「誰か水でもかけたのか?」
全員が一斉に声を上げ、持っていたスマホや懐中電灯を慌てて点ける。
照らし出されたのは信じられない光景だった。
そこには、いままで燃えていたとは思えないほど真っ黒に焦げた薪が積み重なっていた。
火が消えたというよりも何日も放置されたような状態だ。
煙すら上がっていない。
「さっきまで燃えてたよな?」
「こんなに一気に焦げるなんて、普通ありえないだろ」
一人が怯えた声で言い、全員の顔が青ざめる。
それまで冗談を言い合っていた雰囲気は一変し、奇妙な静けさが辺りを包んだ。
突然、背後の森からカサカサという足音が聞こえた。
誰も動いていないはずなのに、確かに近づいてくる気配がする。
全員が息を呑み、懐中電灯の光を向けたが、そこには何もいない。
「帰ろう」
誰かが震える声で言った。
Sさんたちは急いで荷物をまとめ、車へと向かった。
エンジンをかけ車を発進させるまでの間、全員が後ろを振り返ることすらできなかった。
帰り道、車の中では誰も何も話さなかった。
あの焚き火と背後の気配のことを思い出すと、口を開く気になれなかったのだ。
その後、彼らが再びキャンプに行くことはなかったという。
Sさんはあの時の出来事を思い出しながら、今でもあの闇の向こうに何が潜んでいたのかを考えずにはいられない。