Eさんは友人の家に泊まりに行くことになった。
そこは古びた一戸建てで、地元では「座敷わらしが出る」と噂されている家だった。
友人も何度か足音を聞いたり、小さな影を見たりしたことがあるらしい。
もし本当に座敷わらしがいるのなら幸運を呼ぶと聞いていたEさんは、期待に胸を膨らませていた。
その晩、Eさんは友人と遅くまで語り合った後、二階の客間に布団を敷いて寝ることにした。
電気を消すと部屋は深い闇に包まれた。
しばらくすると廊下の奥から「トン、トン、トン」と小さな足音が聞こえてきた。
Eさんは息を飲んだ。
暗闇の中で耳を澄ましていると、音は次第に近づいてくる。
軽やかで子供が走り回るような足音だった。
間違いない、座敷わらしだ!
Eさんはそっと布団を抜け出し部屋のドアへ近づき、少しだけドアを開け廊下の様子を伺う。
足音はすぐそこまで迫っている。
期待して眺めていると、廊下の奥に小さな影が見えた。
Eさんは思わず顔を前に出した。
しかしその影が近づいてきた瞬間、暗がりの中から浮かび上がったのは、小さな子供ではなく皺だらけの老婆の顔だった。
老婆はゆっくりとした足取りで近づき、Eさんが開けたドアの隙間の向こうに立ち止まると、じっとこちらを見つめた。
老婆は不気味に歪んだ笑みを浮かべると、ふっと闇に溶けるように姿を消した。
慌ててドアを閉めたEさんは布団へ飛び込み、震える体を抱きしめながら夜明けを待つしかなかった。
翌朝、友人に話しても「そんな老婆なんて見たことがない」と首を傾げるばかりだった。