田舎の中学校に通うSくんたちは、地元ではちょっとした悪ガキグループ。
夜の学校に忍び込んで遊ぶのが密かな楽しみだった。
その日、Sくんたちは鍵が閉まり忘れていた体育館に集まり、バスケットボールで遊んでいた。
誰もいない夜の体育館は広々としていて、彼らの笑い声とボールが床を弾く音だけが響いている。
ひとしきり遊んだ後、Sくんが
「そろそろ片付けて帰るか」
と言い出すと、Yくんが突然顔を強張らせて天井を指差した。
「おい、天井…何かいる」
冗談だろ、と誰もが笑い飛ばしたがYくんは真剣な表情で動かない。
何となく嫌な空気を感じ始めた仲間たちは気になって天井を見上げた。
しかしそこには何もいない。
「なんだよ、やっぱビビらせようとしてただけじゃん」
誰かがそう言いかけたとき――。
「見てろ!」
とYくんが言い、手に持ったバスケットボールを天井めがけて力いっぱい投げた。
ボールは高く弧を描いて飛んでいき――、次の瞬間、何かにぶつかった。
バンッ!という異様な音とともに、ボールはありえない角度で跳ね返った。
「え?何?」
「な、なんだ今の!?」
体育館に張り詰めた空気の中、皆が天井を見上げている。
暗がりの天井に目を凝らしていると――それは見えた。
天井の梁の間から、真っ黒な影がゆっくりとこちらを覗き込んでいた。
人間のような輪郭に異様に細長い手足。
そして何より、顔が真っ白で表情がない。
Sくんたちは声も出せずただ立ち尽くすしかなかった。
その瞬間、バキバキッと天井から音が響き、影が不自然な動きで梁を移動し始めた。
まるで蜘蛛のように四つん這いで――。
「逃げろっ!」
Sくんの叫びで皆一斉に出口に向かって走り出した。
背後ではうめき声のような音と、天井を這い回る音が追いかけてくる。
Sくんたちは必死に走り体育館を飛び出した。
息を切らしながら恐る恐る体育館を覗くと、天井にいた何かは見えなかった。
それからというもの、Sくんたちはその体育館に近づかなくなったという。
ただ一つ気になるのは、Yくんがその日以来「何かが天井から見てる」と言い続けているそうだ。