大学の山岳部員である健太、美咲、翔太の3人は、夏休みを利用してS県の登山に挑戦していた。
登山計画通り順調に登頂を果たしたが、下山中に突然の濃霧に包まれ道を見失ってしまった。
不安と焦りを感じながら、3人はヘッドライトを頼りに樹林帯を進んだ。
しかし足元は滑りやすく疲労も蓄積していた。
そのうち美咲が足を滑らせて転倒し、右足首を負傷してしまう。
「もう歩けない…」
美咲の言葉に健太と翔太は顔を見合わせる。
辺りはだいぶ日が傾いてきていて、携帯電話の電波も通じない。
このままでは遭難してしまう。
「美咲、すまないがここで待っていてくれ。俺たちが助けを探してくる」
健太はそう告げ、翔太と共に暗闇の中へと消えていった。
どちらか残ってほしいと告げようとしたのだが、二人はあっという間に下って行ってしまった。
美咲は不安で心細い気持ちで一人取り残された。
ヘッドライトの光が周囲の樹木を照らし出すと、奇妙な影がいくつも蠢いているように見えた。
「誰もいない…よね?」
美咲は恐る恐る周囲を見渡した。すると、暗い木々の間から、白い着物を着た女性のような影がこちらをじっと見つめているのが見えた。
「誰…?」
美咲は声を震わせながら問いかけた。しかし、影は何も答えず、ただじっと見つめているだけだった。
恐怖に駆られた美咲は、目を閉じて耳を塞いだ。しかし、耳元には女性のすすり泣きの声が聞こえてくる。
声が聞こえたような気がして美咲は再び目を開けた。すると白い影が消えていた。
「…夢だったのかな?」
美咲は半信半疑のまま再び目を閉じた。
しばらくすると健太と翔太が戻ってきた。2人の姿を見た美咲は安堵の涙を流した。
「良かった…!」
健太と翔太は近くの山小屋で登山者を見つけ、助けを求めたという。
美咲は白い影の事を話してみたが、2人とも何も見ていないと首を振った。