夏休み、私は家族と田舎にある廃墟となった遊園地を訪れた。
かつては子供たちの笑い声が響き渡っていた場所も、今は雑草が生い茂り、朽ち果てた遊具が並ぶだけの荒れ果てた場所だった。
好奇心旺盛な私は、家族とはぐれ一人で園内を探検することにした。
錆びた鉄骨、色あせた看板、壊れたガラス…そこには、かつての賑わいを微塵も感じさせない光景が広がっていた。
しばらく歩いていると、奥の方に古びた木製の観覧車が見えてきた。
近づいてみるとゴンドラは一つだけ残っており、ゆっくりと回転していた。
子供だった私は、廃墟のはずの乗り物が何故動いているのか?という事に違和感を感じず、恐る恐るゴンドラに乗り込み、観覧車に乗り込んだ。
ギシギシと音を立てながら観覧車はゆっくりと上昇していく。
頂上からの景色は、なんとも物悲しいものだった。
雑草に覆われた園内、遠くに見える山々…かつては人々の笑顔で溢れていた場所が、今は静寂に包まれていた。
しばらく景色を眺めていると背後から人の気配を感じた。
振り返って見ると、乗り込んだ時は誰もいなかったはずなのに白いワンピースを着た少女が座っている。
少女は長い黒髪を後ろで束ね、横を向いて遠くを見つめているようだ。
白いワンピースは薄汚れ、ところどころ破れていた。
私は声をかけようと座り直し、その少女をしばらく眺めていた。
少女はこちらを振り向くことはなく、ただ横を向いたまま。
「ねえ、どこから来たの?」
私は恐る恐る尋ねた。
しかし少女は何も答えず、さっきと同じく横を向いて遠くを見つめている。
「何してるの?」
再び尋ねても少女は何も答えない。
私は少女の隣に座り、少女が見ている方向を何も言わずに景色を眺めていた。
しばらくすると少女がようやく口を開いた。
「…ここには誰もいない…」
少女の声はか細く震えていた。
「どうして?」
私は思わず聞き返した。
「…みんな、消えてしまった…」
少女はうつろな目で遠くを見つめた。
「…私も、もうすぐ…」
少女の声はさらに細くなった。
私は少女の言葉の意味が分からなかった。
しかし少女が何か恐ろしいことを体験したことはすぐに分かった。
「大丈夫だよ、私がここにいるよ。」
私は少女の肩に手を置いた。
少女は私の手をじっと見つめた。
そしてかすかに微笑んだ。
「…ありがとう…」
少女の言葉はか細いながらも温かかった。
観覧車がゆっくりと回転していく、私たちは園内を見下ろした。
雑草に覆われた園内、朽ち果てた遊具…かつては子供たちの笑顔で溢れていた場所が、今は静寂に包まれていた。
しかし少女の微笑みを見ていると、その静寂が不思議と心地よく感じられた。
少女はこの廃墟となった遊園地に何を探しにきているのだろうか?
私には少女が何を思っているのか知ることはできなかった。
しかし少女との出会いは、私の心に深い謎を残していった。
観覧車が地面に近づくと、私は少女に手を差し伸べた。
少女は私の手を握りゴンドラから降りた。
私たちは並んで園内を歩き出した。
相変わらず少女は何も言わずに私の手を握っていた。
ふと家族の事を思い出し、周りを見渡した。
その時、握っていた手から少女の手がスッと消えていったような感覚があったので、少女の方を振り向いた。
しかしそこに少女はおらず、ただ廃墟となった遊園地が静寂に包まれていた。