OLのミサキは、毎晩のように残業続きで疲れ切っていた。
今日も終電間際の時間に会社を出て、重い足取りで家路につく。
「はぁ…もうこんな時間…」
時刻は午前0時を回っていた。
人気のない通りを歩くミサキの横を、冷たい夜風が吹き抜けていく。
「…早く帰りたい」
ミサキはそう呟くと、足早にマンションへと続く路地裏へと入っていった。
路地裏に入るとさらに辺りは暗くなり、自分の足音だけが不気味に響き渡る。
その時、ミサキはふとある異変に気づいた。
(あれ…?)
道の先にあるはずの、行き止まりを示す壁がなくなっているのだ。
「まさか…道を間違えた…?」
ミサキは辺りを見回したが、見覚えのある景色はどこにもない。
代わりにそこには先ほどまでとは違う、どこか異様な雰囲気を漂わせる空間が広がっていたのだ。
(な、なに?…ここ…)
不安に駆られるミサキ。
その時、彼女の目に飛び込んできたのは、路地の奥にぼんやりと光る大きな鏡だった。
高さ2メートルはあろうかというその鏡は、古びていてところどころにヒビが入っている。
そして、その鏡面は不気味なほどに黒く、まるで吸い込まれそうな感覚に陥る。
(こんなところに、鏡なんてあったかしら…?)
ミサキは恐る恐る鏡へと近づいていく。
鏡の前に来た時、彼女は思わず息を呑んだ。
鏡に映っていたのは紛れもなく自分自身。
しかし、その表情は普段の自分とはまるで違っていたのだ。
鏡の中のミサキは、顔色は青白く、目は虚ろで、まるで生気を失っているようだった。
その口角は不気味に釣り上がり、薄ら笑いを浮かべているのだ。
(うそ…なに…これ…)
恐怖に震えるミサキ。
その時だった。
鏡の奥からゆっくりと手が伸びてきたのだ…。
「きゃあああああーっ!」
ミサキは悲鳴を上げその場から逃げ出した。
しかし鏡の中の自分は、不気味な笑みを浮かべたままミサキを追いかけてくる。
「こっちに来ないで!来ないでーっ!!」
ミサキは必死に走り続け、ようやく自宅のマンションへと逃げ込んだ。
急いで部屋に駆け込むと同時に、ドアを勢いよく閉めた。
「はぁ…はぁ…」
ミサキは胸を押さえ、荒い息を整えた。
冷や汗が止まらない。
(あれは…一体、なんだったの?)
鏡の中の自分…あの不気味な笑顔…。
それから数日、ミサキは原因不明の高熱を出し寝込んでしまった。