大学生のサオリは、フリーマーケットで奇妙なDVDを見つけた。
それは骨董品やガラクタが所狭しと並ぶ中、薄汚れた段ボール箱の底に無造作に置かれていた。
ジャケット写真もタイトルも何もない、ただの銀色の円盤。
(なんだろう… これ…?)
サオリは不思議に思いながらもそのDVDを手に取った。
(…ちょっと見てみようかな)
売ってる人にこのDVDはいくらか聞くと、「あれ?そんなの持ってきたっけかな?」と不思議そうにしていて、なんだかわからないからタダであげるよと言われた。
家に着いたサオリは急いで自分の部屋に向かい、買ってきたDVDをパソコンにセットした。
画面は真っ黒。
起動音すらしない。
(…なんだ、壊れてるのかな…?)
サオリががっかりして、DVDを取り出そうとしたその時だった。
画面の暗闇がゆっくりと消え、一瞬だけ「顔が無い・・・」と表示されたあと、ぼんやりとした映像が映し出された。
それは薄暗い室内を映した映像のようだった。
粗い画質、不安定なカメラワーク。
明らかに素人が撮影したホームビデオのような映像だった。
しかし 次の瞬間、サオリは凍りついた。
映像にひとりの女性が映ったのだ。
長い黒髪で顔を隠した、白いワンピースを着た女。
女は部屋の隅、カメラに背を向けて立っていた。
しばらく眺めていると、女がゆっくりと振り向いた…。
(…ひっ…!)
サオリは思わず息を呑んだ。
画面に映っていた女の顔は… 目、鼻、口… そのすべてがぽっかりと何もない、ただの白い肌だったのだ。
顔の凹凸すらなく、まるで能面のようにのっぺりとした顔。
表情が読み取れない分その異様さが際立ち、サオリの背筋に冷たいものが走り抜けた。
サオリは恐怖のあまり、パソコンの電源を落とそうとした。
しかしカーソルは全く反応しない。
それなら、とパソコンの電源ボタンを長押ししたが、強制終了も受け付けない。
(え? なんで?)
焦るサオリ。
その間にも画面の女は、こちらに向かって何かを訴えているように、口があるであろう場所が動いている。
しかし音声が全く聞こえない為、何を言っているかも分からない。
すると突然画面が真っ暗になった…。
心臓がバクバクと音を立てている。
(…なんなの… あれ…)
恐怖と混乱の中、サオリは真っ暗になったパソコンの画面に目をやった。
(…!?)
ほんの一瞬だったが、真っ暗なモニターに映る自分の顔が、ビデオの中の女と同じように 目、鼻、口 そのすべてがぽっかりと空いたのっぺりとした顔だった。