怖い話が好きなTさんが体験した話。
季節はもう夏の終わり頃、Tさんは懐中電灯を片手に、友人たちと一緒に人家からかなり離れた神社にやってきた
その神社に特に怖い話とかそういうのは何もないが、肝試しをしようという事でやってきたのだ。
時刻はすでに0時を過ぎている為、神社はシンと静まり返っていて、薄暗い中に佇む神社は不気味だった。
参道を歩く足音だけが響き渡り、友人たちの間に微かな緊張が漂っていた。
神社の境内を見渡していたTさんは、ふと視線を感じて振り返った。
そこには、狐の面を被った男が神社の入り口に立っていた。
男は真っ白な着物をまとい、じっとこちらを見つめている。
まるでその場に溶け込んでいるかのような静けさと、異様な雰囲気を漂わせていた。
「なんか怪しい人がいる」
と友人の一人が小声でつぶやき、Tさんも他の友人も頷いた。
その男の存在はどこか現実離れしていて、声をかけることすらできない。
男はしばらくその場に立っていたが、やがてゆっくりと動き出し、Tさん達の横を通り過ぎて神社の奥へと歩いていった。
しばらく動くことが出来なかったTさんたちだが、友人の一人が
「今の人、気になるから見に行ってみよう」
という一言でなるべく音を立てないように急いで追った。
しかし奇妙なことに、男が入ったと思われる神社の奥には誰もいなかった。
周囲を探してもその姿はどこにも見当たらなかったのだ。
「もしかして神様の使いか何かだったのか?」
と友人の誰かが言った。
Tさんたちは怖くなり、皆で謝罪して急いで帰ったそうだ。