Tさんは解体現場の現場監督として多忙な日々を送っていた。
ある古い建物の解体作業中、不可解な出来事が起きた。
夜間作業中、ふと背後に人の気配を感じたTさんが振り向くと、そこには青白い肌の女性が立っていた。
彼女は古びた赤い着物を着てじっとこちらを見つめていた。
目には深い悲しみが宿っているようだった。
驚いたTさんが声をかけようとした瞬間、女性の姿はふっと消えてしまった。
それからというもの、作業中に彼女の姿が幾度となく現れるようになった。
作業員たちは次第に怯え、現場に近づくのも嫌がるようになった。
納期が迫る中で、Tさんはこの異変を解決しなければならないと感じた。
建物の過去を調べたが、特に目立った事故や事件は見つからない。
それでも赤い着物の女性の正体が気になり、知人に相談を重ねた末、近くのお寺の住職に助けを求めることにした。
住職は現場に出向き、静かにお経を唱え始めた。
その場にいた全員が息を潜めて見守る中、不思議なことが起きた。
お経の響きが空気に染み渡るにつれ、どこからともなく冷たい風が吹き、現場全体がひんやりとした感覚に包まれた。
その風が止むと同時に、誰もが感じていた重苦しい雰囲気が薄れたという。
後日、住職から
「きっとここに何か心残りがあったのでしょう。
作業が終わったら、この土地を浄めてあげてください」
と言われたTさんは、解体が終わった後に改めてその場所を祓い清めたという。
それ以来、赤い着物の女性は二度と姿を現さなかったが、Tさんは今でも夜間作業中にふと感じる視線に敏感になるという。