秋の紅葉が美しい山奥のある神社には、毎年この季節になると、必ず赤い着物を着た女性が現れるという噂がある。
その神社は地元でも「神隠しの神社」として知られていて、昔から参拝者や村人が忽然と姿を消す事件がたびたび起こっていた。
Sさんがその神社を訪れたのは、ちょうど紅葉が見ごろを迎えた時期だった。
境内は秋の実りとともに鮮やかな赤や黄の葉で埋め尽くされ、周囲はひっそりと静まり返っていた。
Sさんはその雰囲気に感動しながら参道を歩いていたが、ふと気づくと木々の間に赤い着物を着た女性が立っているのが見えた。
その女性は紅葉に溶け込むように佇み、Sさんをじっと見つめていた。
「巫女さんかな?何をしてるんだろう」
とSさんは不思議に思い近づこうとしたが、女性の姿はどんどん遠ざかっていくように感じた。
それでも彼は歩みを止めず追いかけ続けた。
だがふと気づくと、足元の落ち葉が音を立てるだけで女性の姿は完全に消えていた。
その後Sさんは神社の社務所に戻り、神主さんにそのことを話してみた。
すると神主さんは顔を曇らせ
「それはもしかすると、かつてこの神社で行方不明になった巫女かもしれない」
とつぶやいた。
何十年も前、この神社に仕えていた若い巫女がある日突然姿を消したのだという。
捜索隊が出たものの、巫女の行方はついにわからないままだった。
地元では神隠しに遭ったと言われ、それ以来紅葉の季節になると彼女の幽霊が現れるという噂が広まっていた。
Sさんはそんな馬鹿なと思っていたが、それ以来、彼の周囲で不思議な現象が起こり始めた。
誰もいないはずの部屋から女性の声が聞こえたり、夜中に物音や足音がしたり、何かに見られているような感覚に襲われた。
そして数日後、Sさんが何気なく家の窓から外を見ると、庭先に紅葉した木々の間にあの赤い着物の女性が立っていたのだ。
その後、Sさんの家族にも奇妙な出来事が続き、紅葉が落ちる頃になるとようやくその現象は静まったという。